
巨大な木製キャビネットが唸りを上げ、その場の空気を回転させて物理的に支配する。
1940年代、ハモンドオルガンのために開発されたドニ・レスリーの最高傑作。あの巨大で、重厚で、あまりにも美しい「ロータリースピーカー」のサウンドマジック。
このエフェクトは、物理的に回転するホーンとドラムが引き起こすドップラー効果による周波数変化、複雑な位相のうねり、そして真空管プリアンプがもたらす濃厚な飽和感という『現象』を、3次元エミュレートで完全再現することで実現した貴重な1台。
ハイエンド・エフェクターの頂点に君臨するSTRYMON(ストライモン)。彼らが最新のDSP技術を惜しみなく投入し、伝説のレスリー・サウンドを再構築したのが「Lex V2」です。
当記事では、そんな聴き手の空間認識を書き換える「エモい」エフェクトとして、近年大注目されている個性派アイテムの主張性にフォーカスして徹底解説いたします!
使用レビュー:ブラインドテストで実機と区別できないレベルの再現度
正直、ここまでくると怖いくらいです。
控えめに言ってもですが、ベテランのエンジニアでも、ブラインドテストで実機と区別できないレベル...。
このペダルの何が凄いって、物理的に重いホーンが回る時のじわっとした加速感や、湿り気を帯びた空気がかき回されるあの“生々しい気配”まで再現されているんですよね。
特にステレオで出した時の立体感は反則級。目をつぶって聴けば、目の前に100kg超えの巨大なレスリー実機が鎮座しているとしか思えません。デジタル特有の『お行儀の良さ』はどこにもなくて、弾き手のタッチに泥臭く反応してくれる。プロの耳すら欺くこの音は、もはやエフェクターと呼ぶのが申し訳無いほどの完成度です。
新世代ARM DSPによる「圧倒的な演算密度」
Lex V2の最大の核となるのは、旧モデルを遥かに凌駕する超高速演算能力を備えた新世代ARM DSPです。ロータリースピーカーという楽器は、極めて複雑な物理現象の集合体です。ホーン(高域)の回転とドラム(低域)の回転は、質量も回転慣性も異なるため、スピードが同期することはありません。
Lex V2は、この「物理的な不一致」をリアルタイムで個別に計算し、空気がかき回される際の微細な乱反射までをも描き出します。デジタル特有の周期的な揺れではなく、カオスを孕んだ有機的なうねり。これこそが、本物と認められる唯一の理由です。
真空管の「磁気的な熱」を再現する独立Driveコントロール
V2へのアップデートで最も劇的な進化を遂げたのが「DRIVE」セクションです。レスリー・キャビネットに内蔵されていた122型や147型アンプのプリアンプ特性を徹底的にプログラミング。
ノブを回していくと、音が単に歪むのではなく、中低域が分厚く膨らみ、高域は心地よくロールオフしていく、あの「真空管の熱」が感じられます。ゲインを上げた際の、音が潰れる寸前のギリギリの粘り強さは、ブルースやロックを演奏する者にとって抗いがたい快感をもたらします。
「Dry」ミックスがもたらす現代的解釈
ヴィンテージ・シミュレーターとしての純血を守りつつ、Lex V2は「現代の音作り」にも完璧に応えています。新搭載のDryノブにより、エフェクト音とギターの原音を精緻にブレンド可能になりました。
ロータリーエフェクトは深くかけると音像がボヤけがちですが、原音を30%ほど混ぜることで、ピッキングのアタック感やコードの解像度を維持したまま、空間全体を揺らすことができます。これはレコーディングにおいて、プラグインでは決して得られない「芯のある立体感」を作り出す鍵となります。
物理現象を掌握する「Mic Distance」と「Horn Level」
本物のレスリーを録音する際、エンジニアが最も神経を使う「マイクの距離感」をコントロールできます。
Mic Distanceノブを最小にすれば、スピーカーが目の前で唸るようなダイレクトで激しい音圧変化を。最大にすれば、部屋全体の残響を含んだ幻想的なアンビエント感を得られます。さらにHorn Levelで高域のバランスを微調整することで、耳に刺さらない甘いトーンから、ミックスを突き抜ける鋭いサウンドまで自由自在です。
加速と減速のドラマ「Ramp Speed」のカスタマイズ
レスリーの醍醐味は、Slow(ゆっくりとした揺れ)からFast(激しい回転)に切り替わる瞬間の「加速のプロセス」にあります。
Lex V2では、この加速・減速の時間を個別に設定可能。高域ホーンが瞬時に加速し、遅れて低域ドラムが重厚に追いかけてくる。その時間差が、楽曲の展開にドラマティックな抑揚を与えます。フットスイッチを離した瞬間に音が「止まっていく」プロセスの美しさは、もはや芸術の域に達しています。
JFET入力が守り抜く「ギターの魂」
入力セクションに採用された高品位なJFETプリアンプ。これにより、デジタルペダルでありながら、アナログ回路特有の指先へのレスポンスを実現しています。
ボリュームを絞った際のクリーンな透明感から、強く弾いた際のバイト感まで、ギターの信号を一切損なうことなく処理します。これは、アンプの一部としてエフェクターを捉えるプロフェッショナルにとって、譲れないポイントです。
7. MIDIと300のプリセットがもたらす無限の可能性
Lex V2は、背面のUSB-CやTRS MIDI端子を通じて、あらゆる現代的コントロールに対応しています。
お気に入りの設定を300個まで保存し、ライブの曲ごとに瞬時に呼び出す。あるいは、エクスプレッションペダルで特定のパラメーターをリアルタイムに操作する。ヴィンテージの不便さを取り除き、その美味しい音だけを現代の利便性で操る——これこそがSTRYMONが提示する「新時代のスタンダード」です。
ロータリースピーカーのDNAと物理学への挑戦
1940年代からの響き:ドニ・レスリーの遺産
音楽史において、ロータリースピーカーは最も「物理的」なエフェクトです。ハモンドオルガンに豊かな広がりを与えるために考案されたその仕組みは、モーターで駆動する物理的な回転体によって生まれます。
ドップラー効果——救急車のサイレンが近づくと高く、遠ざかると低く聞こえる現象——を、音楽に応用したのです。高域を鳴らすホーン(ラッパ)と、低域を鳴らすドラムが、互いに異なる速度で回転することで、音程、音量、位相が複雑に絡み合い、まるで「空間が呼吸している」かのような音響空間が構築されます。
ギターとレスリーの幸福な出会い
当初オルガン用だったこの装置をギタリストが使い始めたとき、新しい音楽の扉が開きました。
ジョージ・ハリスン、エリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリックス、そしてスティーヴィー・レイ・ヴォーン。彼らが求めたのは、揺れではなく、ギターが「生き物のように歌い出す」感覚でした。Lex V2は、その歴史的背景を重く受け止め、デジタル回路の中に「物理的な空気の動き」をシミュレートするのではなく、再構築したのです。
詳細スペック&ビジュアルインプレッション
基本仕様
| 項目 | 詳細 |
| 製品名 | STRYMON Lex V2 |
| 回路構成 | 新世代高性能ARM DSP / JFET入力 |
| コントロール | Speed, Mic Distance, Drive, Dry, Horn Level |
| 入出力 | ステレオ入力(TRS), ステレオ出力, MIDI(TRS), USB-C |
| 電源 | 9V DC / 300mA以上 |
| 外装 | プレミアム・アルマイト・アルミ筐体 |
| 製造国 | アメリカ合衆国(カリフォルニア州) |
コントロール配置の美学
Lex V2の光を吸い込むような質感は、所有者に「最高級のツール」であることを無言で伝えます。
6つのメインノブは、それぞれが重要な役割を持ちながら、相互作用を生み出し深いエディットが可能です。
- Speedノブ: 回転速度を微調整。
- Mic Distance: マイクの物理的距離をシミュレート。
- Drive: プリアンプの歪みを付加。
- Dry: 原音のブレンド量を決定。
- Horn Level: 高域ホーンの音量をコントロール。
中央の2つのフットスイッチは、左がエフェクトのON/OFF、右がSpeed(Slow/Fast)の切り替え。右スイッチを長押しすれば「Brake(回転停止)」がかかり、物理的な摩擦で回転が止まっていく様子を音で表現します。この直感的な操作感こそ、ライブパフォーマンスにおいて最大の武器となります。
音響分析:Lex V2が再現する「多層的なモジュレーション」
高域ホーンと低域ドラムの独立した挙動
Lex V2の最大の特徴は、一つのLFO(発振器)で全体を揺らしているのではない、という点にあります。
内部では「軽量なホーン」と「重量のあるドラム」という、2つの質量が異なる回転体をシミュレートしています。
- 高域(ホーン): 低質量のため、加速が早く、ドップラー効果による音程変化(ピッチシフト)が顕著です。
- 低域(ドラム): 重いため、加速・減速に時間がかかります。音程よりも、低域の迫力ある音圧変化(トレモロ効果)が中心です。
この「上下で速度が違う」ことが、Lex V2の音に、単なるフェイザーやコーラスでは絶対に出せない「複雑な深み」を与えているのです。
キャビネット内の反響音(アンビエンス)
実機のレスリーは、木製の巨大な箱の中で音が鳴っています。Lex V2は、この「箱の中の響き」までも演算に含めています。
音がスピーカーの隙間から漏れ出し、壁に反射してマイクに届く。その時間差(ミリ秒単位のディレイ)が、Lex V2特有の「奥行き」を作り出します。Mic Distanceを上げていくと、この反射音の比率が増え、あたかも大きな部屋の隅にレスリー・キャビネットが置かれているような風景が浮かび上がります。
ジャンル別完全攻略セッティング集
60s サイケデリック・トリップ:伝説のスタジオトーン
設定:
- Speed: Fast
- Mic Distance: 10時(近め)
- Drive: 12時(適度な粘り)
- Dry: 0%
- Horn Level: 1時(明るめ)
推奨:Pink Floyd, The Beatlesサウンド。ギターを完全にオルガンのような質感に変貌させます。ステレオ出力にすれば、音が左右に激しく飛び交い、聴き手を幻想の世界へと誘います。
テキサス・フロッド:SRV風の唸るブルース
設定:
- Speed: Slow
- Mic Distance: 2時(空気感重視)
- Drive: 3時(強めの歪み)
- Dry: 20%(芯を残す)
- Horn Level: 11時(落ち着かせる)
推奨:Stevie Ray Vaughan「Cold Shot」。Driveを上げ、Dryを少し混ぜることで、ストラトキャスターの鈴鳴りを維持したまま、重厚な「揺らぎ」を加えます。Slow設定での深いDepth感は、ブルース・ソロに圧倒的な情感を宿します。
モダン・ゴスペル/R&B:洗練されたきらめき
設定:
- Speed: Slow
- Mic Distance: 3時(深い残響)
- Drive: 9時(クリーン)
- Dry: 50%(透明感)
- Horn Level: 12時
推奨:現代的なコードワーク。コーラスでもなく、ヴィブラートでもない。Lex V2特有の三次元的な揺れを「薄く」かけることで、コードの一つ一つの音が宝石のように輝き始めます。Dryを半分混ぜるのが、今っぽい解釈です。
知人プロが語る:STRYMON Lex V2の真実
レコーディングエンジニア T氏の証言
「ミックスの際、Lex V2で録られたギターは圧倒的に扱いやすいんです。
多くのシミュレーターは位相がめちゃくちゃで、ミックスで音が消えてしまうことが多いんですが、Lex V2はステレオバランスが完璧に計算されています。特に『Horn Level』で高域を調整できるのが神がかっていますね。他の楽器を邪魔せず、かつ存在感を示すことができる、真に実戦的なツールです」
ツアーギタリスト K氏の体験
「以前は他社のロータリーペダルを使っていましたが、Lex V2に変えてから、客席からの『あの音はどうやって出しているの?』という質問が激増しました。
一番の違いは、SlowからFastへ切り替えた時の『加速の溜め』です。あの瞬間、バンド全体のグルーヴが一段階上がるような感覚がある。今ではこのサウンドが僕の個性の一部。もうこれなしでのライブは考えられません」
STRYMON Lex:主な使用アーティスト
John Mayer(ジョン・メイヤー)
現代のギターアイコンであるジョン・メイヤーは、ソロ活動やDead & CompanyのステージにおいてLexを使用しています。
- 詳細: 2019年のワールドツアーやDead & Companyのペダルボードを分析した「Custom Audio Electronics」によるボードビルド写真、および『Premier Guitar』誌の「Rig Rundown」にて確認可能。彼は「よりコンパクトで信頼性の高いレスリーサウンド」としてLexを重宝しています。
The Edge (U2 / ジ・エッジ)
音の魔術師、U2のエッジもSTRYMONの熱心なユーザーとして知られています。
- 詳細: 2015年の「Innocence + Experience」ツアー以降の巨大なラック・エフェクトシステムの中にLexが組み込まれているのが、ギターテックであるDallas Schooのインタビュー(Premier Guitar誌)で詳細に語られています。
Bill Frisell(ビル・フリゼール)
ジャズ〜アメリカーナ界の巨匠、ビル・フリゼール。彼の幻想的なトーンの核にLexが存在します。
- 詳細: 近年のライブ映像や、エフェクターブランドを紹介する「Strymon公式ブログ」でのアーティスト紹介、また多数のジャズ系機材紹介サイト(Equipboard等)で常にメインボードの一角として掲載されています。
Chris Buck(クリス・バック)
英国で今最も注目される実力派ギタリスト、クリス・バック。
- 詳細: 自身のYouTubeチャンネル「Chris Buck Guitar」や、人気番組「That Pedal Show」への出演時、彼は「レスリーのシミュレーターとしてLex以上に音楽的な反応をするものはない」と語り、P-90を搭載したギターとの組み合わせで頻繁に使用しています。
Ariel Posen(アリエル・ポーゼン)
スライドギターの名手であり、現代のトーン・マスター。
- 詳細: 自身の公式Instagramや、機材紹介動画にて確認。彼の代名詞である「スワンプで湿度のあるサウンド」を作る際、LexのDriveノブを活用して濃厚な揺らぎを生み出しています。
Joey Landreth(ジョーイ・ランドレス)
The Bros. Landrethのリーダーであり、アリエル・ポーゼンと並び称されるトーンの求道者。
- 詳細: 「The Landreth Brothers」のライブ機材紹介記事、およびStrymonの公式インタビュー動画にて確認。彼の極太なスライドトーンに奥行きを与えるためにLexが使用されています。
James Valentine (Maroon 5 / ジェームス・ヴァレンタイン)
Maroon 5のサウンドを支えるカッティングの名手。
- 詳細: 2010年代後半からのツアーボードにLexが確認されています(Premier Guitar - Rig Rundown: Maroon 5's James Valentine)。クリーンなカッティングに彩りを添えるために多用。
Mark Lettieri (Snarky Puppy / マーク・レッティエリ)
超絶技巧集団Snarky Puppyのギタリスト。
- 詳細: 自身のボードを紹介する「Rig Rundown」や、Strymon公式のデモ演奏・インタビューにて。ファンクにおけるロータリーサウンドの現代的解釈をLexで体現しています。
ライバル機との徹底比較:Lex V2が「孤高の存在」である理由
vs Neo Instruments Ventilator II:プロが悩む「双璧」の対決
| 比較項目 | STRYMON Lex V2 | Neo Instruments Ventilator II |
| キャラクター | 音楽的で温かい。ギターのトーンと溶け合う。 | 徹底的にリアル。レスリー実機の出力を再現。 |
| 操作性 | 直感的。即座に音作りが可能。 | ノブの効きが独特で、追い込むのに時間がかかる。 |
| サイズ感 | コンパクト。一般的なボードに収まる。 | 巨大。専用のスペース確保が必要。 |
| 歪みの質 | ドライブ感があり、リードギター向き。 | 実機のプリアンプに近い硬派な歪み。 |
【分析】
Neo Instrumentsは長年「王座」に君臨してきた機種です。音のリアリズムにおいて、特に「ステレオの分離感」は凄まじいものがあります。
しかし、Lex V2の強みは「楽器としての調和」にあります。Ventilator IIが「レスリーそのものを持ち出す」感覚なら、Lex V2は「ギターサウンドにレスリーの魔法をかける」感覚。弾き手のタッチへの反応速度や、ドライブを上げた際の音楽的な心地よさは、Lex V2に軍配が上がります。
vs BOSS RT-20:定番とハイエンドの壁
| 比較項目 | STRYMON Lex V2 | BOSS RT-20 |
| 演算精度 | 32bit浮動小数点。極めて高精細。 | 旧世代のデジタル処理。やや平面的な揺れ。 |
| 立体感 | 前後左右の「空気の動き」を感じる。 | 左右の位相が回る「コーラス寄り」の音。 |
| 筐体設計 | 高品位アルミ。スイッチも静粛。 | ツインペダル仕様。やや物理的なノイズがある。 |
| 付加機能 | MIDI対応。最新の拡張性。 | 視覚的な回転インジケーター(便利)。 |
【分析】
BOSS RT-20は、その視覚的な楽しさと手軽さで愛されてきた以前の定番機です。しかし、Lex V2と比較してしまうと、音の「解像度」に決定的な差が出ます。
RT-20が「音を揺らす」という結果に特化しているのに対し、Lex V2は「揺れるまでの物理的な過程」をシミュレートしています。特に「Brake(停止)」させた時の徐々に音が止まっていく慣性の表現力において、Lex V2は圧倒的な優位性を誇ります。
まとめ:メンテナンス不要で永遠に回せる高品質ロータリー!
実機のロータリースピーカーを所有することは、ギタリストにとって一つの「終着点」ですが、同時にメンテナンスという終わりのない戦いの始まりでもあります。
劣化したドライブベルトの交換、モーターの異音、そして運搬のたびに神経を削る巨大な木製キャビネット。STRYMON Lex V2は、それらすべての苦労からあなたを解放し、「理想の回転」だけを永遠に提供し続ける救世主デバイスです!
物理的な摩耗を一切気にすることなく、最高級のコンディションで調整された122型レスリーの響きを、スイッチ一つで呼び出す。オイル切れも断線の心配もなく、ライブの最中でもレコーディングの深夜でも、常に「最高の一回転」を刻み続けます。


