
あなたのギターサウンドに、あの「歌心」は宿っていますか?
ギタリストの足元で、緑色の小さな筐体が奏でる独特のミッドレンジ。Ibanez TS9 Tube Screamerと聞いて、あなたはどんなサウンドを思い浮かべますか?「あのブルースの音?」「王道のオーバードライブ?」…確かにその通りです。しかし、このペダルが持つ真の価値は、単なる「歪み」の範疇に留まりません。もしあなたが、ギターソロを「歌わせたい」、アンサンブルの中で「自分の音を埋もれさせたくない」、あるいはアンプの真価を「最大限に引き出したい」と願うなら、この緑の箱こそが、その魔法の鍵を握っています。
数えきれないほどのトップギタリストの足元で、TS9は常に「定番中の定番」として輝き続けました。それは、単体で得られる歪みの質もさることながら、アンプや他の歪みペダルと連動することで、まるでギターサウンドそのものが「躍動し始める」かのような、唯一無二の「音のスイートスポット」を創出する能力に長けているからです。この普遍的なペダルが、なぜ今も世界の第一線で活用され続けるのか。TS9の奥深さと、真の魅力を紐解いていきましょう。
Ibanez TS9 Tube Screamerとは?「暖かさ」と「存在感」のアイコン
Ibanez TS9 Tube Screamer は、1981年に発売されたオーバードライブペダルです。その前身であるTS808のサウンドを基盤としつつ、より現代的なニーズに応えるべく改良が加えられました。その開発コンセプトは、「真空管アンプが自然にクランチするサウンドを再現し、ギターの音に暖かみとサスティーンを加える」というものでした。特に、「ミッドレンジを強調し、ローエンドをわずかにカットする」という独特の回路設計が、TS9を唯一無二の存在たらしめています。
コントロールはDrive、Tone、Levelの3ノブ構成。極めてシンプルで直感的でありながら、その組み合わせによって驚くほど多彩なニュアンスを生み出します。この「シンプルさ」と「特定の周波数帯への巧妙なフォーカス」こそが、「音のキャラクターを決定づけるアイコン」へと押し上げました。
なぜこのペダルがこれほどまでに「不朽の定番」と呼ばれるのか?それは、「どんなアンプやギターと組み合わせても、サウンドに『歌心』と『存在感』を付与し、アンサンブルの中で際立たせる」という、普遍的な価値を持ち続けているからです。TS9はギタリストの音を「聞かせる音」へと昇華させるための、「魔法のスパイス」なのです。
Ibanez TS9のレビュー:無人島に歪みペダルを1つだけ持っていくならこの1台
サウンドキャラクター詳細:「中域の魔力」と「艶やかなドライブ」
- 「ミッドレンジの魔術師」としての本質: TS9のサウンドは、何よりもその「際立つミッドレンジ」に集約されます。ペダルをオンにすると、サウンド全体に暖かく、そして艶やかな「ヴェール」がかけられたかのような変化が訪れます。特に、ローエンドをわずかにタイトにし、ミッドレンジをブーストすることで、ギターサウンドがアンサンブルの中で埋もれることなく、まるで「一歩前に出てくる」かのような存在感を放ちます。これは、バンドサウンドの中でギターソロを際立たせたい時や、リフに強烈なパンチを与えたい時に絶大な効果を発揮します。
- 「アンプブースター」としての究極の機能: TS9の最も一般的な、そして最も効果的な使い方は、既にクリーン〜クランチに設定された真空管アンプの前に繋ぎ、Levelノブでアンプの入力段を強力にプッシュすることです。この時、Driveノブは控えめに(9時〜12時程度)設定するのがプロの定石です。TS9自体が歪むのではなく、アンプが持つ本来の歪みをさらに深く、しかも極めて音楽的に飽和させます。コンプレッション感が自然に加わり、サスティーンが粘り強く伸び、アンプが「歌い出す」ような感動的なサウンドが生まれるのです。これは、ブルース、ロック、フュージョンなど、あらゆるジャンルで重宝される「王道のトーン」です。
- 「歪みペダルへの味付け」としての絶妙な配合: TS9は、単独の歪みとしてだけでなく、他の歪みペダルの「前菜」や「隠し味」としても機能します。例えば、ハイゲインなディストーションペダルの前段にTS9を配置し、Levelでプッシュすることで、そのディストーションサウンドに「分厚いミッドレンジ」と「粘り強いサスティーン」を加えることができます。これにより、単調になりがちなハイゲインサウンドに、人間味あふれる表情と「歌心」を付与することが可能です。
- Toneノブの繊細な魔法: TS9のToneノブは、サウンドのキャラクターを決定づける上で極めて重要です。右に回せばよりブライトでクリアなサウンドに、左に絞ると暖かく、丸みのあるサウンドになります。アンプや他のペダルとの組み合わせにおいて、このToneノブで微調整することで、サウンド全体の「噛み合わせ」を最適化し、理想の音のスイートスポットを見つけることができます。
- ピッキングニュアンスへの卓越した反応性: TS9は、プレイヤーのピッキングの強弱や、指先の微妙なタッチを驚くほど忠実に、そしてダイナミックに音に反映させます。ゲインを上げていても、弱く弾けばクリーンなニュアンスが残り、強く弾けば艶やかに歪む。この「音のダイナミクスレンジの広さ」こそが、TS9がプロから絶賛される所以です。まさに「弾き手の魂がそのまま音になる」かのような、圧倒的な表現力を提供します。
- ギター・アンプとの化学反応: シングルコイルのギターでは、その煌びやかさを損なうことなく、ミッドレンジに太さとコシを与え、ブルージーで粘りのあるトーンを生み出します。特にハーフトーンでの鈴鳴り感が、より際立つようになるでしょう。ハムバッカーのギターでは、その重厚なサウンドに、さらに暖かみとサスティーンを付与し、歌心溢れるリードトーンや、力強いリフサウンドを構築します。Fender系、Marshall系、Matchless系など、あらゆる真空管アンプとの相性が抜群で、アンプ本来のサウンドを最良の形で引き出します。
TS9の特徴・特性(レーダーチャート)

TS9は、ギターの神様たちの魂と繋がれる「秘密兵器」
私の海外ミュージシャン仲間との会話の中で、TS9はもはや「ディストーション」や「オーバードライブ」という言葉を超え、「サウンドの骨格を成す要」として語られます。
- 海外ミュージシャンたちのTS9評: 「俺のアンプサウンドを『完成』させるために、TS9は絶対に必要なんだ。」これは、あるグラミー受賞ギタリストの言葉です。彼らはTS9を、単なるエフェクトとしてではなく、「アンプのサウンドキャラクターを最適化し、演奏表現を最大化するための必須ツール」として認識しています。実際、僕のレコーディング現場でも、時間と予算が限られる中、TS9は常に「失敗のない選択肢」として、求めるサウンドを迅速に提供してくれてきました。
- 多様な音楽ジャンルでの「普遍的な貢献」: ブルース(スティーヴィー・レイ・ヴォーン)、ロック(ジョン・メイヤー、エリック・ジョンソン)、フュージョン(スコット・ヘンダーソン)、カントリー、ポップスに至るまで、TS9が活躍したジャンルは枚挙にいとまがありません。リードギターはもちろんのこと、リズムギターに「存在感と粘り」を与えるため、あるいはベースに繋いで「暖かく、芯のあるドライブ感」を付与するなど、その用途は多岐にわたります。これは、TS9が持つ「ミッドレンジの魔力」が、楽曲全体のサウンドプロダクションにおいて、普遍的に求められる要素だからです。
- 「クローンペダル」が数多く存在する理由: TS9の回路は、世界中で数えきれないほどのクローンやモディファイペダルのベースとなっています。これは、TS9が持つサウンドキャラクターが、いかにギタリストにとって「理想的」であり、同時に「再現したい」と願われるものであるかを示しています。しかし、それでもなお「オリジナルTS9の持つ、あの独特な粘り気と艶やかさ」は、他のペダルではなかなか得られない、唯一無二の魅力として君臨し続けています。
TS9を最大限に活かす「ミッドブーストの黄金律」とボード構築のヒント
- 「ミッドブースト」としての黄金セッティング:
- 「SRV系ブルースリード」: Drive 9時〜10時、Tone 12時、Level 1時〜3時(アンプ側はクランチに設定)。これにより、粘りのある極上のリードトーンが得られます。
- 「アンプドライブの深化」: Drive 10時〜12時、Tone 12時〜1時、Level 2時〜3時(アンプ側をクリーン〜クランチに設定し、アンプ本来の歪みを引き出す)。
- 「ソロでの存在感ブースト」: Drive 12時〜1時、Tone 1時〜2時、Level 2時(メイン歪みペダルの前段に接続し、中域とサスティーンを強化)。
- 他のペダルとの連携術:
- 他の歪みペダルとの組み合わせ: TS9の後に、よりハイゲインなディストーションやファズを繋ぐことで、TS9で強調されたミッドレンジが後段の歪みに乗り、「歌うような」リードトーンや、非常に密度の高い分厚いリフサウンドを創出できます。
- コンプレッサーとの組み合わせ: TS9の前にコンプレッサーを置くことで、音の粒立ちをさらに揃え、より滑らかで長いサスティーンを得られます。特にブルースやフュージョン系のリードで効果的です。コンプは浅めにかけるのがポイント!
- プロが実践するTS9ボードへの組み込み:
- ボード内の戦略的配置: TS9は、そのミッドブースト力を最大限に活かすため、「歪みチェーンの最初に置く」か、「アンプの入力直前に置く」(※空間系はセンドリターンからポスト部分で加える)のが定石です。これにより、ギターからの信号を最適な形で加工し、その後の音作り全体の質を格段に向上させます。
Ibanez TS9 Tube Screamer 主な使用アーティスト
Ibanez TS9 Tube Screamer は、そのミッドレンジの魔力とアンプをプッシュする能力から、数えきれないほどのギタリストに愛されてきました。ここでは、そのサウンドを代表する主な使用アーティストを挙げます。
- Stevie Ray Vaughan (スティーヴィー・レイ・ヴォーン)
- TS9の最も象徴的なユーザーであり、彼の粘り強く、歌い上げるようなブルースロックトーンは、TS9なしには語れません。彼はTS9をアンプのプッシュに使用し、クリーンなFenderアンプを極上のドライブサウンドへと変貌させました。彼のサウンドは、TS9の真価を世界に知らしめました。
- John Mayer (ジョン・メイヤー)
- 現代ブルースとポップスを融合させた彼のサウンドにも、TS9は欠かせません。彼の繊細なタッチから生まれる艶やかなクリーンからクランチ、そしてリードトーンまで、TS9の持つミッドレンジの温かさとサスティーンがその表現力を支えています。特に、アンプを軽くドライブさせた状態にTS9を重ねる使い方が有名です。
- Eric Johnson (エリック・ジョンソン)
- 完璧主義者として知られる彼の、クリスタルクリアなクリーンから、どこまでも伸びるサスティーンを持つリードトーンの秘密の一つがTS9です。彼はTS9のLevelノブを高めに設定し、アンプをさらにプッシュすることで、あの「ヴァイオリンのよう」と形容される滑らかなサウンドを生み出しています。
- Steve Lukather (スティーヴ・ルカサー / TOTO)
- TOTOのギタリストとして、また世界屈指のセッションギタリストとして知られるスティーヴ・ルカサーも、そのキャリアの中でTS9を愛用してきました。彼の幅広いジャンルに対応する柔軟なサウンドメイクにおいて、TS9の持つミッドレンジの特性は、ソロでの「歌心」や、アンサンブルの中で埋もれない存在感を確保するために重要な役割を果たしています。特に、アンプのドライブサウンドをさらにプッシュし、倍音豊かなリードトーンを得るために活用されていました。
- Kirk Fletcher (カーク・フレッチャー)
- 現代ブルースシーンを牽引するギタリストの一人。彼のブルースフィーリング溢れる粘り気のあるトーンは、TS9のミッドレンジと相性が良く、アンプを最高の状態にドライブさせるために活用されています。
- Joe Bonamassa (ジョー・ボナマッサ)
- ブルースロックの現代の巨匠。彼は様々なヴィンテージアンプとペダルを使いこなしますが、そのボードにはTS9あるいはTS系のペダルが組み込まれていることが多く、その太くパワフルなサウンドの形成に貢献しています。
上記のギタリストは、TS9とギター、アンプ、そして自身の指先が一体となった「音の生命体」としてのサウンドを最大限に引き出すための、不可欠な「音の要」として活用していますよね。
Ibanez TS9(チューブスクリーマー)のメリット・デメリット総括
TS9のメリット
- 唯一無二の「ミッドレンジの魔力」: ギターサウンドに「歌心」と「存在感」を与え、アンサンブルでの抜けを確保。
- アンプのポテンシャルを最大限に引き出す: クリーン〜クランチのアンプを艶やかにドライブさせ、極上のトーンを生み出す「アンプブースター」としての究極の機能。
- 汎用性の高さ: あらゆるジャンル、ギター、アンプと相性が良く、音作りの核となる。
- 卓越したピッキングニュアンスへの追従性: 弾き手の感情をダイレクトに音に反映させ、表現力を飛躍的に向上させる。
- 堅牢な筐体と信頼性: BOSS同様、長年の現場使用に耐えうる耐久性。
- プロからの絶大な信頼: 世界中のレジェンドが愛用し続ける、不朽の定番。
TS9のデメリット
- ローエンドのわずかなカット: 人によっては、低域が物足りなく感じる場合があります。
- しかし: この特性こそが、TS9がアンサンブルの中で埋もれない「抜けの良さ」を生み出す鍵です。ベースやキックと干渉せず、ギターの存在感を際立たせるための巧妙な設計であり、EQで簡単に補完することも可能です。
- ゲインを上げすぎると音が籠もる傾向: Driveノブを上げすぎると、特有のミッドレンジが強調されすぎて、音が籠もって聴こえることがあります。
- しかし: TS9の真価は、高いゲインで使うことではなく、アンプや他の歪みペダルをプッシュする「ブースター」としての使い方にあります。Driveノブは控えめに設定し、Levelで音量を稼ぐのが「黄金律」であることを理解すれば、この問題は解決します。
結論:TS9で「歌心」と「音のスイートスポット」を呼び覚ませ!
Ibanez TS9 Tube Screamerは、ギターサウンドに「歌心」と「存在感」を与え、アンプや他の機材が持つポテンシャルを最大限に引き出すための、「最適解」です。そのシンプルな見た目の裏には、組み合わせ方次第で無限の可能性を秘めた、奥深い音の世界が広がっています。
もしあなたが、自身のサウンドに「もっと色艶が欲しい」「ソロで埋もれたくない」「アンプのドライブを最大限に活かしたい」と願っているなら、ぜひ一度TS9を手にし、その「ミッドレンジの魔力」を体感してみてください。そのパワフルでありながらも表現豊かなサウンドは、きっとあなたのギタープレイに新たなインスピレーションを与え、音作りの概念を再定義してくれるはずです。