
サウンドの、音の分子構造が組み変わったかのような錯覚に陥る。
「もはや、魅力というより魔力」
ギターのトーンがまるで意志を持って呼吸し始め、水面に広がる波紋のように美しく、かつ予定調和ではない芸術性を帯びる――。
かつての名機「Julia」のDNAを受け継ぎながら、ステレオ出力とタップテンポ、さらに革新的な「ランダム波形」を手に入れた、Walrus Audio Julianna Deluxe Chorus/Vibrato。
世界中のコーラスマニアを唸らせているこのアイテムは、80年代のドリーミーなコーラスから、現代のネオソウル、さらには深海に沈むようなダークなヴィブラートまで、あらゆる「揺らぎ」を支配する女王の風格を漂わせています。
使用レビュー:音のプロポーションを変幻自在に操れる
「トーン・プロポーション(音の黄金比)」を、指先ひとつで変幻自在に解体・再構築できる。これがJuliannaを触る真の醍醐味です。
特筆すべきはLagノブ。これは単なる調整役ではなく、音の「厚みと弾力」を司る心臓部です。最小に絞れば、水滴が弾けるようなタイトで硬質な透明感が、最大に回せば、深海で重力が狂ったような濃密でドロリとしたうねりが生まれます。
さらにd-p-vノブを回せば、ドライ音とエフェクト音の混ざり具合をミリ単位で調整でき、原音の輪郭を残したまま「気配」だけを揺らすといった芸当も可能。音の密度や時間軸を自由自在に引き延ばし、楽曲に最も相応しい「揺らぎの黄金比」を即座に導き出せるのです。
ステレオが生み出す圧倒的な没入感
Juliannaの最大の変化は、ステレオ入出力への対応です。モノラルでも十分すぎるほど美しいですが、ステレオ環境で鳴らした瞬間、その真価が牙を剥きます。
LとRで完璧に位相が管理された揺らぎは、ギターの音を左右に広げるだけでなく、「奥行き」という3次元的な情報を付加します。それはまるで、広大な大聖堂で演奏しているような、あるいは静かな湖の真ん中で音を放っているような、圧倒的なスケール感です。
d-c-v(Dry-Chorus-Vibrato)による無段階のブレンド
多くのペダルが「コーラス」か「ヴィブラート」かの2択を迫る中、Juliannaは「d-c-v」ノブによって、その境界線を自由に行き来できます。
- d (Dry): エフェクトなし。
- c (Chorus): 伝統的なコーラス。
- v (Vibrato): 100%ウェットなヴィブラート。
この中間を狙うことで、「コーラスほど甘すぎず、ヴィブラートほど不安定すぎない」絶妙な質感も作り出せるのです。
「ランダム波形」がもたらす有機的な不規則性
Juliannaには、サイン波、三角波に加えて、第3の波形「ランダム」が搭載されています。これがこのペダルの白眉です。
一定の周期で繰り返される機械的な揺れではなく、カセットテープの劣化や、風に揺れる木々のような「自然界の揺らぎ」を再現します。この不安定さが、デジタルな現代の音楽制作において、抗いがたい人間味(アナログ感)を付与してくれるのです。
タップテンポとディヴィジョン機能の実装
アナログ回路でありながら、現代的な操作性を完備。タップテンポスイッチにより、楽曲のBPMに瞬時に同期できます。
さらに、音符の分割(4分、8分、3連符)を選択可能。これにより、スローなバラードから、マシンガンのような高速パルスまで、足元一つで制御できる実戦力を手に入れました。
ドリフト機能:二次的な「うねり」の追加
「Secondary Momentary Function」により、スイッチを長押ししている間だけ、モジュレーションの速度を加速・減速させることができます。
これにより、演奏の盛り上がりに合わせて一時的に回転を速めたり、音の終わりに劇的な変化を加えたりといった、エクスプレッションペダルなしでの動的な表現が可能になりました。
ラグ(Lag)コントロールによる「硬軟」の操作
Lagノブは、LFO(低周波発振器)が変調させる中心のディレイタイムを調整します。
低く設定すれば、タイトで煌びやかなモダン・コーラスに。高く設定すれば、デチューン感が増した、ドロドロとしたサイケデリックな揺れに。このノブ一つで、ペダルの性格を180度変えることができます。
芸術的なデザインとビルドクオリティ
Walrus Audioといえば、そのグラフィックの美しさも楽器の一部です。独自の世界感をモチーフにしたアートワークは、ペダルボードに並べるだけでインスピレーションを刺激します。
また、ノイズレスなスイッチング、高品質なコンポーネントによる透明感のあるサウンドは、プロのスタジオワークにも耐えうる一級品です。
アナログ・モジュレーションの進化系:Juliannaの設計思想
BBD回路が紡ぐ「本物」の質感
Juliannaの心臓部には、アナログ・コーラスの象徴であるBBD(バケツ・ブリゲード・デバイス)チップが採用されています。デジタルのシミュレーションでは再現しきれない、高域のわずかなロールオフと、中音域の暖かみ。これこそが、多くのプレイヤーがアナログを求める理由です。
Juliannaはこの伝統的な回路をベースにしながら、デジタル制御(マイクロプロセッサ)を組み合わせることで、「アナログの音」と「現代の利便性」の完璧なハイブリッドを実現しました。
揺らぎの地平を広げるステレオ・イメージ
ステレオ出力時、Juliannaは単に信号を2つに分けるのではありません。ステレオ・フィールドを最大限に活用するために、LFOの位相を反転させたり、左右の遅延時間をわずかにずらしたりすることで、ヘッドフォンや2台のアンプで聴いた際に「脳が揺れる」ような幻想体験を生み出します。
詳細スペック&ビジュアルインプレッション
基本仕様
| 項目 | 詳細 |
| 製品名 | Walrus Audio Julianna |
| タイプ | ステレオ・アナログ・コーラス / ヴィブラート |
| 回路方式 | BBD(Bucket Brigade Device) |
| 入出力 | ステレオ入力 / ステレオ出力 |
| 電源 | 9V DC(センターマイナス) |
| 寸法 | 約122mm × 74mm × 58mm |
| 重量 | 約348g |
| 製造国 | アメリカ(オクラホマ州) |
インターフェースの機能美
筐体表面には5つのノブと2つのスイッチ、2つのフットスイッチが整然と並んでいます。
- Rate: 揺れの速さ。
- Depth: 揺れの深さ。
- Lag: 揺れのキャラクター(プリディレイ)の調整。
- d-c-v: ドライ/ウェットのブレンド比率。
- Shape: 波形選択(サイン/三角/ランダム)。
LEDはRateに合わせて点滅し、現在のテンポを視覚的に伝えます。スイッチは静音仕様で、深夜の自宅録音でもカチカチという音が入る心配はありません。
ジャンル別完全攻略セッティング集
80's ニューウェーブ:煌びやかなガラスのトーン
- Rate: 10時
- Depth: 11時
- Lag: 9時(タイトに)
- d-c-v: 12時(Classic Chorus)
- Shape: 三角波
クリーンなシングルコイルに合わせれば、The CureやThe Smithsのような、切なくも美しいクリスタル・サウンドが蘇ります。
ネオソウル / ローファイ:揺らめく午後のひととき
- Rate: 9時(ゆっくり)
- Depth: 2時
- Lag: 3時(深いデチューン感)
- d-c-v: 5時(100% Vibrato)
- Shape: ランダム
ランダム波形による予測不能なピッチの揺れが、古いレコードのような質感を演出します。第7コードを鳴らすだけで、そこはチルアウトな空間に。
サイケデリック・シューゲイザー:深海の轟音
- Rate: 2時(速め)
- Depth: 最大
- Lag: 最大
- d-c-v: 1時(厚みのあるコーラス)
- Shape: サイン波
深い歪みの後段に配置することで、壁のようなサウンドに強烈なうねりを加えます。Lagを上げることで、音が引き裂かれるようなダイナミックな効果が得られます。
知人プロが語る:Juliannaとの出会い
ライブ・セッション・ギタリスト K氏の証言
「以前はJuliaを愛用していましたが、ステレオボードに移行する際にJuliannaに買い替えました。
驚いたのは、タップテンポの正確さと、ランダム波形の使い勝手の良さです。アルペジオのバックでランダム設定にしておくと、計算されていない『天然』の揺らぎが出て、楽曲のクオリティが一段上がりますね。」
レコーディング・プロデューサー S氏の視点
「ミックスの段階で、ギターに少し存在感が足りない時、 Juliannaを通すと一気に解決することがあります。
特にd-c-vノブを微妙に動かして、ドライ音をわずかに残したヴィブラート寄りの設定にすると、ステレオ音像の中でギターがくっきりと浮き上がってくる。エンジニアにとっても、非常に音楽的なツールです。」
ライバル機との徹底比較分析
| 項目 | Julianna | BOSS CE-2W | Strymon Ola |
| 駆動方式 | アナログ(BBD) | アナログ(BBD) | デジタル(DSP) |
| ステレオ対応 | 完全ステレオ入出力 | ステレオ出力のみ | ステレオ入出力 |
| タップテンポ | あり | なし | なし |
| 波形選択 | 3種類(ランダム含む) | 2種類 | 3種類 |
| 独自機能 | ラグ調整、長押し加速 | 伝説的モード再現 | エンベロープ感知 |
まとめ:深海を自由に泳ぎ回るような、圧倒的な没入体験
Juliannaを踏み込んだ瞬間、足元から現れるのは果てしない青の世界。それはまさに、光の届く浅瀬から静寂が支配する深海までを自由に泳ぎ回るような、圧倒的な没入体験です。
アナログBBD回路が紡ぎ出すサウンドは、どこまでも有機的で滑らか。高域の鋭さを優しく包み込みながら、耳に馴染む「うねり」へと変換されるその過程は、まさにうっとりするようなサウンドプロポーション。完璧にコントロールされたステレオの位相が、聴き手の意識を全方位から包み込み、浮遊感という名の快楽へと誘います。
空間そのものの密度を書き換えてしまうこのペダル。一度その音の波に身を委ねれば、日常の喧騒を忘れ、深海の平穏へと溶け込んでいくような至福のひとときが約束されるでしょう。




