
「この中音域、もはや芸術品……」
1980年代のギターキッズを熱狂させ、今や世界的なプレミアアイテムとなった伝説の名機「ST9」。その遺伝子をストレートに受け継ぎながら、現代のハイエンドな音楽シーンに対応すべく過激なまでの進化を遂げたのが、このST9Pro+です。
こいつ、ただのオーバードライブペダルではありません。他のどのペダルでも真似できない「極太の音圧」を叩き出してくれます。
「TS系サウンド」の枠を良い意味で完全に破壊・再構築した、ある意味ミッドレンジ専門のモンスターマシンといっても過言ではない!?
今回は、その魔力的なサウンドの秘密を解き明かしていきます。
使用レビュー:これぞ、現代版・ミッドレンジの絶対王者
「中音域が抜ける」という次元を遥かに超えている。MAXON ST9Pro+を踏み込んだ瞬間、アンサンブルのど真ん中に、冷徹なまでに極太でタイトなギターの「核」が弾き出される。
その秘密は、心臓部として君臨する「Mid Enhance」コントロール。これにより、ロック系バンドの音圧に決して埋もれない、最も美味しい帯域をピンポイントで覚醒させられる。さらに内部18V昇圧へ切り替えれば、多弦の重低音すら支配する驚異的なヘッドルームが開放されるのだ。
クラシックな粘りとモダンな高解像度を完全に掌握したこの佇まいは、まさに現代の歪みシーンにおける絶対王者。足元にこれがあるだけで、どんなステージでも自分の音が主役に躍り出る。
ジェットエンジンのように艶やかで滑らかなミッドレンジ
MAXON ST9Pro+のトーンの核となるのは、元となったST9に搭載されていたヴィンテージ・オーバードライブの代名詞でもある「JRC4558D」オペアンプのような味付けです。
この心臓部がもたらす艶やかで滑らかなミッドレンジはそのままに、周辺回路を徹底的にブラッシュアップ。ノイズフロアを極限まで抑え込み、現代のレコーディングやライブステージの過酷な要求に耐えうるハイスペックな解像度を獲得しています。アナログの温かみと、現代的なクリアさが見事に同居しているのです。
「Mid Enhance」コントロールがもたらす唯一無二の音響造形
一般的なオーバードライブの「Tone」ノブは、高域を削るか足すかというシンプルな構造がほとんどですが、ST9Pro+に搭載された「Mid Enhance」は全く異なります。
歪みのキャラクターを決定づける中音域の特定の周波数帯を、ピンポイントで強力に押し上げることができるのです。これにより、バンドアンサンブルの中でベースやドラムに埋もれない、輪郭のハッキリとした「抜けるギターサウンド」を自由自在にコントロール可能となりました。
「Classic / 9V」と「Low Boost / 18V」の2モードが放つ劇的な二面性
本体中央に鎮座するトグルスイッチ。これがST9Pro+を唯一無二の存在に昇華させています。「Classicモード」では、9V駆動による伝統的なコンプレッション感と甘く粘るヴィンテージTSトーンを出力。「Low Boostモード」に切り替えると、内部昇圧回路により18Vで駆動。劇的にヘッドルームが拡大し、同時に低音域がグッと底上げされます。
これにより、モダンな多弦ギターの重低音にも一切濁りのない、タイトで冷徹なモダンヘヴィドライブへと変貌するのです。
アンプのポテンシャルを極限まで引き出す最強の「ブースター」
ST9Pro+は単体での歪みも極めて優秀ですが、真空管アンプ(特にマーシャルやメサブギーなど)のドライブチャンネルをプッシュする「前段ブースター」として使用した際、その真価を限界まで発揮!
Driveを低めに、Levelを高めに設定することで、アンプが持つ本来の歪みに心地よい倍音と粘りをプラス。低域の引き締まりと中域の押し出しにより、ソロプレイ時に圧倒的な存在感を放つ極上のリードトーンを作り出します。
4ノブ構成による緻密かつ直感的なトーンシェイピング
Drive、Level、Tone、そしてMid Enhance。この4つのコントロールの相互作用により、信じられないほど幅広いサウンドメイクが可能です。
ドンシャリのモダンなメタルリフから、ミッドが盛り上がったヴィンテージなブルーストーン、さらにはトランスペアレント系を彷彿とさせる原音を活かしたクランチまで、ギタリストが頭の中で描く「理想の歪み」を完全に具現化することができます。
Super Tube Screamerの回路マジック

80年代の機材シーンを揺るがした「Super Tube Screamer」の血統
1980年代、世界中で巻き起こった空前のハードロック・ヘヴィメタルブーム。その渦中で、ギタリストたちはより深い歪みと、激しいソロを際立たせるための中音域を求めていました。その要求に応える形でMAXONが世に送り出したのが、名機「ST9 (Super Tube Screamer)」です。
伝説的なTS9にミッドパラメトリックイコライザー(Mid Boost)を追加したその回路は、瞬く間に世界中のトッププレイヤーの間でカルト的な人気を博しました。ST9Pro+は、その伝説的な回路設計を現代のテクノロジーでリファインした、正統なる後継者なのです。
単なるリイシュー(復刻)を超えた現代的モディファイ
ヴィンテージ機材の復刻は素晴らしい試みですが、現代の音楽シーン、特にハイゲインアンプや多弦ギター、高解像度なデジタルレコーディング環境においては、ヴィンテージ特有の「レンジの狭さ」や「低域の細さ」がデメリットになることも少なくありません。
MAXONの開発チームは、往年のST9のサウンドキャラクターを完全に把握した上で、現代のギタリストが直面する音響的課題をクリアするための「18V昇圧&ロー成分の強化」という答えを導き出しました。歴史への敬意と、飽くなき革新性の融合がここにあります。
詳細スペック&ビジュアルインプレッション
基本仕様
| 項目 | 詳細 |
| 製品名 | MAXON ST9Pro+ (Super Tube) |
| タイプ | アナログ・オーバードライブ / ブースター |
| 電源 | 9VDC(センターマイナス)※内部で18Vに昇圧可能(スイッチ切り替え) |
| 消費電流 | 9V駆動時:約12mA / 18V駆動時:約36mA |
| 寸法 | 約124mm(W) × 74mm(D) × 54mm(H) |
| 重量 | 約610g(電池含む) |
| 製造国 | 日本(Made in Japan) |
| 参考価格 | ¥25,000前後 |
コントロール配置の美学
MAXON ST9Pro+の外観は、一目でそれと分かる鮮やかな「メタリックグリーン」の堅牢なダイキャスト筐体が特徴です。これは往年のST9のカラーリングをオマージュしたもので、ペダルボード内でも圧倒的な存在感を放ちます。
トップパネルには4つのコントロールノブ(Drive、Level、Tone、Mid Enhance)が整然と並び、中央には駆動電圧と回路の特性を切り替えるスライドトグルスイッチが配置されています。各ノブは適度なトルク感があり、演奏中の意図しない接触によるズレを防ぎつつ、ミリ単位の微調整が可能です。
音響分析:モードや電圧による周波数特性
Classicモード(9V駆動):伝統的なマイルド&スムース
Classicモードに設定すると、回路は標準的な9Vで動作します。この時の周波数特性は、世界中のギタリストが愛してやまない「王道のTS系サウンド」に非常に近くなります。
- 高域(Treble): 耳障りな高周波を適度にカットし、シルキーで丸みのあるトーン。
- 中域(Middle): 緩やかな山なりのカーブを描き、ギターの最も美味しい帯域が自然にプッシュされる。
- 低域(Bass): アンサンブル内でのベースとの被りを防ぐため、ローエンドがタイトにロールオフされる。
- 波形特性: 適度なコンプレッション(コンプ感)が働き、サスティーンが豊かで、ピッキングの粗を適度にカバーしてくれる扱いやすさがあります。
Low Boostモード(18V駆動):圧倒的なワイドレンジ&モダンヘヴィ
スイッチをLow Boost側に切り替えると、内部のDC-DCコンバータにより電圧が18Vへと昇圧されます。周波数特性およびダイナミック特性は、Classicモードとは全く異なる次元へと突入します。
- 高域(Treble): 超高域までレンジが広がり、ピッキングのアタック感が非常にクリアに抜けてくる。
- 中域(Middle): Mid Boostノブの効きがよりシャープになり、より劇的なトーン変化が可能に。
- 低域(Bass): 9V駆動時にカットされていた超低域(ローエンド)が完全に開放され、大型キャビネットを鳴らしているかのような地響きを伴う重低音が出力される。
- 波形特性: ヘッドルームが広がることで歪みの成分が非常に細かくなり、コードを掻き鳴らした際も1弦から6弦(あるいは7弦・8弦)までの分離感が損なわれません。潰れのない、極めて精細なドライブサウンドです。
ジャンル別完全攻略セッティング集
ブルース&ルーツロック:スモーキーな粘りと極上の艶
伝統的なテキサスブルースやスワンプ、泥臭いロックに最適な、手元のアナログフィールを限界まで高めるセッティング。
- Drive: 10時
- Level: 2時
- Tone: 11時
- Mid Enhance: 12時
- Mode: Classic (9V)
推奨スタイル: Stevie Ray Vaughan, John Mayer, Eric Clapton
Classicモードの適度なコンプレッション感が、ストラトキャスターなどのシングルコイルピックアップに絶妙な太さと粘りを与えます。Driveを少し控えめにし、Levelを上げることでアンプのフロントエンドを軽くプッシュ。Mid Boostをセンター付近に置くことで、鼻詰まり感のない、非常にふくよかで生々しいクランチトーンが完成します。
ハードロック&クラシックメタル:80's王道の咆哮
アンプの歪みに極上の倍音を上書きし、伸びやかなソロとエッジの効いたリフを両立させるセッティング。
- Drive: 2時
- Level: 11時
- Tone: 1時
- Mid Enhance: 3時
- Mode: Classic (9V)
推奨スタイル: Gary Moore, Michael Schenker, Whitesnake
ハードロックのリードプレイにおいて、この設定は最強の武器になります。Mid Boostを3時方向まで大胆に回すことで、中音域が驚異的なエネルギーを持って押し出され、ロングサスティーンを伴う泣きのギターソロが可能になります。Toneを少し上げることで、歪みを深くしてもアタックの輪郭がボヤけることはありません。
フュージョン&ジャズロック:洗練された都会的なサスティーン
全帯域がフラットかつ滑らかに伸び、コードワークでもソロでも一切の澱みがない知的でテクニカルなセッティング。
- Drive: 12時
- Level: 12時
- Tone: 10時
- Mid Enhance: 11時
- Mode: Low Boost (18V)
推奨スタイル: Larry Carlton, Robben Ford, Guthrie Govan
18VのLow Boostモードを選択することで、ピッキングに対するレスポンスが高速化。速いパッセージや複雑なテンションコードを多用するフュージョンにおいて、音がダンゴにならず、一音一音のニュアンスが鮮明に浮かび上がります。Toneを少し抑えることで、甘く太いフロントピックアップのトーンをさらに引き立てます。
ネオソウル&現代ポップス:トランスペアレントな煌めき
カッティングのキレを損なわず、和音の美しさと絶妙な空気感を演出するモダンなセッティング。
- Drive: 8時(ほぼ最小)
- Level: 3時
- Tone: 2時
- Mid Enhance: 9時
- Mode: Low Boost (18V)
推奨スタイル: Tom Misch, Mateus Asato, Polyphia
歪みペダルとしてではなく、「極上のプリアンプ/クリーンブースター」としてST9Pro+を機能させる手法。18V駆動による圧倒的な透明感を利用し、原音にほんの少しの太さと輝き(倍音)をプラスします。Mid Boostを抑えめにすることでクリーン全体のバランスを取り、現代的なネオソウルのコードカッティングに最高のキレと色気を与えます。
現代ヘヴィネス&ジェント:多弦ギターを支配するタイトな壁
7弦・8弦ギターの超低音を一切濁らせず、高速なミュートリフを完璧に再生するモダンメタル専用セッティング。
- Drive: 9時
- Level: 4時
- Tone: 3時
- Mid Enhance: 2時
- Mode: Low Boost (18V)
推奨スタイル: Periphery, Meshuggah, Animals As Leaders
ハイゲインアンプの前段に配置し、アンプの歪みを強烈に引き締めるセッティングです。Low Boostモードの強靭な低域と、Mid Boostによるミッドレンジの押し出しが、ダウンチューニングされたギターの低音弦をタイトに補正。アンプ側で歪ませた際に発生しがちな「ブーミーでボヤけた低域」を完全に排除し、レーザー光線のように鋭く、重いリフを刻むことができます。
オルタナティブ&インディーロック:ザラついた荒々しいテクスチャー
あえて綺麗にまとめず、ガレージロックのようなローファイさと荒々しさを同居させたセッティング。
- Drive: 4時(深め)
- Level: 10時
- Tone: 9時
- Mid Enhance: 4時
- Mode: Classic (9V)
推奨スタイル: Nirvana, The Black Keys, Radiohead
DriveとMid Boostを深く設定し、9VのClassicモードで動作させることで、回路が限界まで飽和した「スクリーム感」を演出します。Toneを絞ることで高域のトゲを隠しつつ、ローミッドが塊のようになって迫ってくる、壁のようなディストーションサウンドを作ることができます。
知人プロが語る:ST9Pro+の特性

プロギタリスト(知人) K氏の体験談
「長年、ヴィンテージのTS9や様々なブティック系オーバードライブを渡り歩いてきましたが、最終的にボードの核として残ったのがST9Pro+でした。何よりMid Enhanceノブの存在が大きすぎます。ハコの大きさやアンプの個体差によって、どうしても中音域が引っ込んで聴こえるステージがあるんですが、その場でMid Enhanceを微調整するだけで、一瞬で自分のトーンを取り戻せる。この実用性は他のペダルにはありません。
ライブでは、イントロのクランチカッティングは18VのLow Boostモードでキレよく、ソロに入った瞬間に手元でClassicモードのようなニュアンスに変えるなど(セッティングを曲間で切り替える)、その圧倒的な懐の深さにいつも助けられています。これぞ日本の職人が作った本物の道具、という風格を感じますね」
ライバル機との徹底比較分析
vs Ibanez TS9 Tube Screamer:本家・大定番との比較
| 項目 | MAXON ST9Pro+ | Ibanez TS9 |
| 回路方式 | アナログ(JRC4558D搭載) | アナログ(TA75558等) |
| コントロール | 4ノブ(Mid Enhanceあり) | 3ノブ(Drive, Tone, Level) |
| 駆動電圧 | 9V / 18V(内部昇圧切り替え) | 9V専用 |
| サウンド特性 | 骨太・極ワイドレンジ・可変性大 | マイルド・ミッド寄り・定番 |
| バイパス | トゥルーバイパス | バッファードバイパス |
TS9は世界標準の素晴らしいペダルですが、低域が削れすぎてしまう点や、モダンな歪みに対してパワー不足を感じる場面もあります。ST9Pro+は、TS9の良さを100%内包した上で、Mid Enhanceと18V駆動によってその限界を遥かに超えた「完全上位互換」とも言えるスペックを誇ります。
vs MAXON OD808:同門・ヴィンテージ至上主義との対決
| 項目 | MAXON ST9Pro+ | MAXON OD808 |
| 音色キャラクター | モダン〜ヴィンテージまで変幻自在 | どこまでも甘くウォームなオールドサウンド |
| 低域の太さ | スイッチにより爆発的に強化可能 | 適度にカットされスマート |
| レスポンス | 18V時は超高速・高ダイナミクス | 9V特有のねっとりとしたコンプ感 |
OD808はよりクラシックなブルースやオールドロックに特化しており、その甘いトーンは至高です。対してST9Pro+は、そのOD808のようなヴィンテージトーンを出力できるだけでなく、メタルやモダンフュージョンまでカバーできる「圧倒的な汎用性の高さ」が最大の強みです。
まとめ:中音域をひとつの芸術として扱えるペダル
MAXON ST9Pro+は、単に音を歪ませる道具ではないのです。いわば、ギタートーンの魂とも言える「中音域」をひとつの芸術として、緻密にコントロールし、昇華させるためのペダルという感覚。
伝統のTS回路が持つ艶やかな響きをベースに、「Mid Enhance」という名の筆を執れば、アンサンブルの中で最も美しく際立つ色彩を自由自在に描くことができる。
ある時はブルースの奥深い情感を語る肉声のように、またある時はモダンヘヴィネスの壁を切り裂くレーザー光線のように、中域の表情を美しく変貌させるのです。


