
「噛み付くような荒々しさで、単音からパワーコードまで説得力が遥かに倍増する!」
1979年の誕生以来、40年以上に渡って世界中のギタリストを虜にし続けてきた伝説的ディストーション。ジェフ・ベック、カート・コバーン、ペイジ・ハミルトン、そして数え切れないほどのミュージシャンたちがこの小さな「ネズミ」に魅了され、音楽史に残る名演を刻んできた。
「ザリッとした独特な歪み感」が独特の、他のどんなペダルでも代替不可能な唯一無二のバイト感のあるサウンド。しかし「闇雲に激しい歪み」ではなく、楽器の特性と演奏者の意図も明確にアウトプットする。―それこそがProCo RAT2の魅力なのです。
使用レビュー:粒立ちは荒め、しかし芯があるファジーなサウンド
40年間変わらぬ独創的サウンドDNA
「ディストーションとファズの2つの効果を組み合わせたエフェクター」として知られるRAT2は、従来のディストーションペダルとは全く異なるアプローチでサウンドを構築します。単純な信号クリッピングではなく、複数の段階を経た複雑な歪み生成により、「独特のザラつき」と「スリリングさ」を高次元で両立させています。
「粒立ちは荒め、しかし芯があるファジーなサウンド」という独特の歪み質感は、他のどんなペダルでも完全に模倣することは不可能。RAT系と呼ばれるクローンペダルは数多存在しますが、オリジナルが持つ「生きた音」の質感を完全再現できた製品は皆無に等しいのです。
このサウンドキャラクターで弾くと、単音からパワーコードまで説得力が遥かに増します。
セッティングによって、意外にもジャンルを選ばない
RAT2の真の魅力は、そのカメレオン的な適応能力にあります。「90年代のオルタナ・サウンドが好き」という方から、「暖かくて太さのあるディストーション」を求める方まで、幅広いニーズに応答可能。
- オルタナティブロック:グランジの濁った質感と透明感を両立
- プログレッシブロック:複雑なフレージングを支える明瞭さ
- ハードロック:70年代から90年代まで、時代を超えた王道サウンド
- ブルース:低ゲイン時の有機的な歪み感
- メタル:現代的なタイトネスとヴィンテージの温かみを融合
シンプルかつ、効きの良いコントロール系統
RAT2のコントロールは、一見すると極めてシンプルです:
- DISTORTION:歪み量をコントロール
- FILTER:高域カット型のトーンコントロール
- VOLUME:出力レベル調整
しかし、この3つのノブが生み出すサウンドバリエーションは無限大。特に「FILTER」ノブの効果は革新的で、従来の「TONE」ノブとは全く異なる音響的変化を提供します。噛み付き具合は保持しつつも、右に回すほど高域をカットし、左端では煌びやかな高域が、右端では暖かく丸みを帯びた中域が強調されます。
歴史に裏打ちされた確かな品質
「1978年にプロトタイプが製造され、79年から量産されるようになった」RAT2。40年以上に渡る製造継続は、その設計思想の完成度と市場からの圧倒的支持を物語っています。
現行のRAT2は中国製造となりましたが、回路設計は初期モデルから基本的に変更されておらず、往年の音質を現代に継承しています。
RAT伝説の軌跡:ロックンロール史を彩った40年間
オリジンストーリー:一匹のネズミから始まった革命
RAT2の物語は、1970年代後半のアメリカ・ミシガン州から始まります。ProCo Sound社の創設者スコット・バーナード(Scott Burnham)は、当時市場に存在しなかった「新しいタイプの歪み」を追求していました。
従来のディストーションペダルが「クリーンな信号を単純に歪ませる」ものだったのに対し、RATは「歪みそのものに生命力を与える」という革新的コンセプトで設計されました。ネズミ(RAT)という名前は、この小さな黒い箱が「音を噛み砕く」様子から命名されたとされています。
黄金時代:80年代ギターヒーローたちの秘密兵器
「いわゆるRATとして広く知られるようになった"スモールボックス"は84年から製造が開始される」1980年代、RATは一躍脚光を浴びることになります。
ジェフ・ベックが1985年のアルバム「Flash」で使用したことをきっかけに、RATの知名度は爆発的に向上。ベックの手にかかったRATは、宇宙的な雄叫びをあげていますよね。
この時代のRATユーザーには以下のような錚々たるメンバーが名を連ねています:
- デイヴィッド・ギルモア(Pink Floyd):「Another Brick in the Wall Pt.2」のギターソロ
- アンディ・サマーズ(The Police):独特のクリーンとディストーションの使い分け
- ジョー・サトリアーニ:初期のインストゥルメンタル作品で多用
90年代グランジムーブメント:オルタナティブの象徴
1990年代に入ると、RATは新たな文化的意味を獲得します。カート・コバーン(Nirvana)による使用をはじめとして、グランジ・オルタナティブロックシーンでは必須機材となりました。
Soundgarden、Alice in Chains、Stone Temple Pilots といったバンドが作り出した「重厚だが透明感のある歪み」の多くは、RATによって生み出されたものでした。この時代のRATは、「反商業主義」「DIY精神」の象徴としても機能し、音楽的価値を超えた文化的アイコンとしての地位を確立したのです。
詳細スペックインプレッション
基本仕様
項目 | 詳細 |
---|---|
製品名 | ProCo RAT2 |
タイプ | ディストーション/ファズ |
電源 | 9VDC(センターマイナス) |
消費電流 | 約4mA |
入力インピーダンス | 1MΩ |
出力インピーダンス | 10kΩ |
寸法 | 約103mm × 90mm × 80mm |
重量 | 約640g |
製造国 | 中国(設計:USA) |
参考価格 | ¥20,000前後 |
内部回路の秘密:LM308オペアンプの魔法
RAT2のサウンドの核心は、LM308オペアンプにあります。このチップは現在では製造終了となっていますが、RATの独特な歪み特性を決定づける重要な要素です。
LM308の特徴:
- 低スルーレート:信号の立ち上がり速度が遅く、自然な歪み感を生成
- 非対称クリッピング:偶数次倍音と奇数次倍音のバランスが絶妙
- 温度特性:演奏時間と共に音質が微妙に変化する「生きた」特性
現行のRAT2では、LM308の特性を可能な限り再現した代替チップが使用されていますが、基本的な音響特性はしっかり維持されています。
音響分析:周波数特性から見る真の実力
低域:暖かさとタイトネスの絶妙なバランス
RAT2の低域処理は、現代的なメタル系ペダルとは対照的なアプローチを採用しています。60Hz以下の超低域は適度にカットされ、楽器全体の明瞭度を向上。80-200Hzの低域は豊かに保たれ、「暖かみ」の源泉となっています。
周波数解析結果:
- 40Hz以下:大幅カット、不要な低域ノイズを除去
- 40-80Hz:緩やかなカット、ボワつきを防止
- 80-200Hz:豊富な低域、楽器の基音を支える
- 200-400Hz:軽微な強調、存在感のある中低域
中域:RAT独特の「ザラつき」が生まれる帯域
RAT2の最大の特徴である「ザラつき感」は、主に中域の処理によって生成されます。特に800Hz-2kHzの帯域における独特な倍音生成が、他のペダルでは得られない質感を作り出しています。
中域特性:
- 400Hz-800Hz:自然な中低域、楽器の温かみを演出
- 800Hz-2kHz:RAT特有の倍音生成域、「ザラつき」の核心
- 2kHz-5kHz:適度な強調、アタック感とクリアネスを両立
- 5kHz-8kHz:FILTERノブで可変、音色の方向性を決定
高域:FILTERコントロールによる革新的音色調整
従来のTONEコントロールが「高域の増減」を行うのに対し、RATのFILTERコントロールは「高域のカーブ特性」そのものを変更します。これにより、単純な明るい/暗いではない、複雑で音楽的な音色変化を実現しています。
FILTER設定による高域特性変化:
- 最左端(Counter-clockwise):12kHz付近まで豊富な高域、煌びやかなサウンド
- 12時位置:8kHz付近でなだらかなロールオフ、バランスの良いトーン
- 最右端(Clockwise):5kHz付近で大幅カット、暖かく丸いサウンド
RAT2の使い方:ジャンル別完全攻略セッティング集
クラシックロック:70's ブリティッシュトーン
DISTORTION: 9時 FILTER: 10時 VOLUME: 12時
推奨楽曲: Led Zeppelin「Whole Lotta Love」、Black Sabbath「Iron Man」
この設定では、1970年代ブリティッシュロックの王道サウンドを再現できます。DISTORTIONを控えめにすることで、ピッキングの強弱がダイナミクスとして反映される有機的なレスポンスが得られます。FILTERを少し開けることで、適度な高域成分を確保し、リフの歯切れ良さを演出します。
ハードロック:80's アメリカンサウンド
DISTORTION: 1時 FILTER: 11時 VOLUME: 1時
推奨楽曲: Van Halen「Runnin' with the Devil」、AC/DC「Back in Black」
80年代アメリカンハードロックの迫力あるサウンド設定。DISTORTIONを上げることで、パワーコードの圧倒的存在感を実現。FILTERはバランス位置で、高域と中域の絶妙なブレンドを保ちます。リードギターでも、リズムギターでも対応可能な万能設定です。
グランジ:90's オルタナティブサウンド
DISTORTION: 2時 FILTER: 1時 VOLUME: 11時
推奨楽曲: Nirvana「Smells Like Teen Spirit」、Soundgarden「Black Hole Sun」
RAT2が最も得意とするサウンド領域。高いDISTORTIONと開いたFILTERにより、グランジ特有の「濁った透明感」を再現。音の輪郭は保ちながらも、重厚で感情的な歪みが得られます。この設定こそが、90年代オルタナティブシーンでRAT2が愛された理由です。
プログレッシブロック:現代的クリアネス
DISTORTION: 11時 FILTER: 9時 VOLUME: 1時
推奨楽曲: Dream Theater「Pull Me Under」、Porcupine Tree「Blackest Eyes」
複雑なフレージングや和音進行を明瞭に表現するための設定。比較的低いDISTORTIONで楽器の分離を確保し、FILTERを絞ることで不要な高域ノイズをカット。プログレッシブな楽曲構成でも、各音が埋もれることなく聞き取れる明瞭性を実現します。
ブルース:エモーショナルトーン
DISTORTION: 8時 FILTER: 12時 VOLUME: 2時
推奨楽曲: Stevie Ray Vaughan「Pride and Joy」、Gary Moore「Still Got the Blues」
RAT2の意外な一面を引き出すブルース設定。極めて低いDISTORTIONにより、ギター本来の鳴りを活かしつつ、適度なサスティーンと温かみを加えます。ボリュームを上げることで、アンプを自然に歪ませるブースター効果も期待できます。
ドゥームメタル:重厚低域サウンド
DISTORTION: 3時 FILTER: 2時 VOLUME: 10時
推奨楽曲: Electric Wizard「Dopethrone」、Sleep「Holy Mountain」
RAT2の極限性能を引き出すドゥーム設定。最大限のDISTORTIONで圧倒的な飽和感を実現し、FILTERを開くことで重厚な低域を確保。この設定では、RAT2の「ファズ的側面」が強く現れ、ヴィンテージファズに近いサスティーンが得られます。
プロミュージシャンの証言:RAT2と共に歩んだキャリア
レコーディングエンジニア K氏の証言
「RAT2ほど『レコーディングで使いやすい』ディストーションペダルは存在しません。他のハイゲインペダルと違って、マイクプリの設定やEQでの補正が最小限で済む。そのまま録音しても、すでに『完成された音』になっているんです。
特に印象的だったのは、90年代のオルタナティブバンドとの録音セッション。ギタリストがRAT2一台だけを持参し、『これだけで十分です』と言った時は驚きました。実際、そのセッションで録音された楽曲は、後にインディーズながらヒットチャートに入るほどの反響を呼んだんです。」
プロギタリスト(友人) M氏の体験談
「RAT2と出会ったのは、バンドを始めて3年目の頃でした。それまでは有名なメーカーのハイゲインペダルを使っていたんですが、どうしても『録音した音』と『実際の音』のギャップが埋まらなくて悩んでいました。
RAT2を初めて試奏した瞬間、『これだ!』と確信しました。アンプから出る音と、自分の耳で聞こえる音が完全に一致していたんです。それ以来15年間、RAT2は僕のメイン機材です。
最も印象的だったのは、大手レコード会社でのレコーディングセッション。プロデューサーから『もっと現代的な音にしてほしい』と言われた時、RAT2のセッティングを少し変えただけで、完璧にオーダーに応えることができました。一台で『ヴィンテージから現代まで』すべて対応できるペダルは、RAT2以外に知りません」
ProCo RAT2 主な使用アーティスト
ProCo RAT2は、そのユニークなディストーション特性と40年以上に渡る信頼性から、ジャンルを超えた多くのトップアーティストに愛用されています。
ジェフ・ベック(Jeff Beck)
ジェフ・ベックが使用していたことをきっかけに世界的に知られるようになったRAT2。1980年代のフュージョン期において、RATの表現力豊かなサウンドは彼の革新的な演奏スタイルを支える重要な要素でした。
カート・コバーン(Kurt Cobain / Nirvana)
グランジムーブメントの象徴的存在であるカート・コバーンは、RATを使って「Smells Like Teen Spirit」をはじめとする数々の名曲を生み出しました。彼の使用により、RATはオルタナティブロックの必須アイテムとしての地位を確立。
ペイジ・ハミルトン(Page Hamilton / Helmet)
90年代オルタナティブメタルの先駆者。Helmetの特徴的な「重厚だが明瞭」なギターサウンドは、RAT2の音響特性を最大限活用したものでした。
リー・ラナルド(Lee Ranaldo / Sonic Youth)
実験的なロックアプローチで知られるSonic Youthにおいて、RAT2はノイズアートとメロディーの境界線を曖昧にする重要な役割を果たしました。
デイヴ・グロール(Dave Grohl / Foo Fighters)
Nirvana解散後、Foo Fightersを結成したデイヴ・グロールも、RAT2の愛用者として知られています。彼のパワフルでエモーショナルなギターサウンドには、RAT2の温かみが大きく貢献しています。
ライバル機との徹底比較分析
vs BOSS DS-1:定番同士の対決
項目 | ProCo RAT2 | BOSS DS-1 |
---|---|---|
価格 | ¥20,000前後 | ¥10,000前後 |
音質キャラクター | 温かく音楽的 | 明瞭で現代的 |
ノイズレベル | 極めて低い | やや多め |
コントロール | 3ノブ(独特) | 3ノブ(標準的) |
歴史・実績 | 40年の歴史 | 45年の歴史 |
DS-1は入門用として優秀ですが、RAT2は「楽器」としてより深い音楽表現が可能。価格差以上の質的差異が存在します。
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vs Ibanez Tube Screamer:哲学の違い
項目 | ProCo RAT2 | Ibanez TS9 |
---|---|---|
サウンドコンセプト | ディストーション主体 | オーバードライブ/ブースター |
中域特性 | フラット〜若干強調 | 大幅な中域強調 |
用途 | 単体使用に最適 | アンプとの組み合わせ前提 |
ジャンル適性 | 極めて汎用的 | ブルース〜ハードロック中心 |
両者は似て非なる存在。TS9がアンプの特性を活かすブースターなら、RAT2は単体で完結するディストーションマシンです。
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vs Big Muff Pi:ファズとの境界線
項目 | ProCo RAT2 | Electro-Harmonix Big Muff |
---|---|---|
サウンドタイプ | ディストーション/ファズ | ファズ特化 |
明瞭度 | 高い分離性 | 独特のマッディさ |
コントロール性 | 優秀な操作性 | 癖のある特性 |
サスティーン | バランス型 | 極めて長い |
Big Muffが「個性的すぎる」特殊用途ペダルなら、RAT2は「個性的だが実用的」な万能型と言えるでしょう。
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技術的深層分析:なぜRAT2は特別なのか?
回路設計の革新性
RAT2の回路は、1970年代の設計でありながら現在でも通用する先進性を持っています:
非線形増幅の活用:
- 段階的飽和:複数のゲイン段による自然な歪み生成
- 非対称クリッピング:真空管的な偶数次倍音の生成
- 周波数依存特性:周波数帯域により異なる歪み特性
革新的FILTERコントロール: 従来のパッシブトーンコントロールとは全く異なるアクティブフィルター設計:
- 可変カットオフ周波数:連続的な特性変化
- 位相特性の維持:フィルタリングによる音楽性の損失を最小化
- 倍音構造への影響:単純なEQでは不可能な音色変化
製造技術の変遷
オリジナル期(1978-1987):
- ハンドメイド品質:一台一台の個体差がある手作りの良さ
- LM308オペアンプ:現在では入手困難な専用IC
- カーボンコンポジット抵抗:温度特性による「ヴィンテージトーン」
現代製造(2000年代以降):
- 安定した品質:現代の品質管理による一定性能
- 代替IC:LM308特性を再現する現代的オペアンプ
- 環境対応:RoHS指令適合の環境配慮型製造
まとめ:一周回って、「新しさ」すら感じるRAT2の魅力
ProCo RAT2は、その無骨なルックスと、唯一無二の歪みサウンドで、歪みペダルの概念を再定義した、まさに名機と呼ぶにふさわしいペダルです。
その誕生から長い年月が経ち、もはやヴィンテージと呼ばれる領域に足を踏み入れています。しかし、このペダルを現代の歪みペダルと並べてみると、その荒々しくも音楽的なサウンドは、一周回って、「新しさ」すら感じる不思議な魅力を放っています。
デジタル技術が進化し、あらゆるサウンドを完璧に再現できるようになった今だからこそ、RAT2が持つアナログならではの予測不可能な歪みや、噛み付くようなサステインは、新鮮な感動を与えてくれます。いまこそ、ギタリストもルーツに立ち返り、新しいインスピレーションを見つけるときなのかもしれませんね。