コーラス

ELECTRO-HARMONIX「SMALL CLONE」レビュー:レトロな雰囲気に浸る音の幻影

ELECTRO-HARMONIX SMALL CLONE のイメージ画像

ヴィンテージな香りを纏い、まるで時間がゆっくりと流れるかのような揺らぎを内包するこのコーラスペダル「ELECTRO-HARMONIX SMALL CLONE」は、多くのギタリストのペダルボードに鎮座し、数えきれないほどの音楽にその柔らかな煌めきを添えてきた。

初めてニルヴァーナの「Come As You Are」のイントロを生で聴いた時の震え。あの幻想的で美しく、どこか憂鬱でありながら希望に満ちたトーン。

1970年代後期にエレクトロ・ハーモニックスが世に送り出した初代CLONEシリーズ。そのヴィンテージトーンを現代に蘇らせ、コンパクトボディに封じ込めた至高の逸品―それがELECTRO-HARMONIX SMALL CLONEです。

使用レビュー:聴く者の記憶の底に眠るノスタルジーを静かに揺り起こす

「SMALL CLONE」は、1970年代に生まれた兄貴分「STEREO CLONE THEORY」の遺伝子を受け継ぎながら、シンプルさを極めたコーラスペダルとして誕生した。その佇まいは、現代のエフェクターに見られるような多機能なパネルとは一線を画す。大きな筐体に、たった一つのコントロールノブ「RATE」と、切り替えスイッチ「DEPTH」のみ。この極端なまでのミニマリズムが、かえってこのペダルの本質を雄弁に物語っている。余計なものを一切削ぎ落とし、ただひたすらに「美しい揺らぎ」を追求したその思想は、まさに禅の境地にも通じる。

現代のデジタル技術によって生み出されるコーラスエフェクトは、クリアで、緻密で、そして完璧だ。しかし、完璧さとは時に、感情の余地を奪ってしまう。SMALL CLONEが持つ魅力は、その「不完全さ」にあると言える。アナログ回路が描き出すその揺れは、決して一定ではない。微かに歪み、時には予想外の変調を見せる。しかし、その僅かな揺らぎこそが、音楽に血を通わせ、生きた息吹を与える。まるで、古びたレコード盤の溝に刻まれた微細なノイズが、その音楽に深みと温かみを加えるように!

このアナログ回路がもたらす揺らぎは、単調で均一な揺れではない。それは、まるで水面に映る光が揺れ動くような、あるいは蜃気楼のようにぼんやりと霞むような、幻想的な音の風景を描き出す。透明感の中にも、どこか懐かしさを感じさせるその音色は、聴く者の記憶の底に眠るノスタルジーを静かに揺り起こす。このペダルが、なぜこれほどまでに多くのギタリストに愛され、長きにわたり使用され続けているのか。それは、このペダルが単なる音響効果ではなく、一つの「情感」を表現するツールだからだ。

伝説的バンドが愛した唯一無二のヴィンテージサウンド

「カート・コバーンがニルヴァーナの楽曲制作で使用していた」ことで一躍有名となったSMALL CLONE。ニルヴァーナの「Come As You Are」、「Smells Like Teen Spirit」といった名曲で聞かれる、あの夢幻的なコーラストーンこそがSMALL CLONEの真骨頂なのです。

単なる「コーラスエフェクト」ではありません。これは音楽史に刻まれた「伝説の音色」そのものなのです。

アナログ回路が生む有機的なモジュレーション

「デジタルでは決して再現できない温かみのあるアナログコーラス」がSMALL CLONEの最大の特徴。BBD(バケットブリゲードデバイス)を使用したアナログ遅延回路により、機械的ではない自然で音楽的なモジュレーションを実現しています。

まるで楽器自体が呼吸しているような、生命力溢れる響きこそが、SMALL CLONEが半世紀近くにわたって愛され続ける理由なのです。

シンプルながら効きが深いコントロール系統

「RateとDepthの2ノブという極めてシンプルな操作性」でありながら、得られるサウンドの幅は驚異的。そして隠し玉とも言える「DEPTHスイッチ」により、全く異なる2つのキャラクターを使い分けることが可能です。

複雑な設定に迷うことなく、直感的にあなたの理想とする音色へとたどり着けます。操作の簡潔さは、創造性の解放につながるのです。

圧倒的なヴァーサティリティ

クリーントーンでの幻想的な空間演出から、歪みサウンドでのリッチなハーモニー付加まで。ジャンルを問わず、SMALL CLONEは楽曲に新たな次元を加えます。

「付加的な装飾音」ではなく、楽曲の根幹に関わる「音楽的要素」として機能する。これこそがSMALL CLONEの真価です。

コストパフォーマンス抜群の名機

¥15,000前後という価格でありながら、得られる音質とキャラクターは他の追随を許しません。ヴィンテージオリジナルが数十万円で取引される中、この価格でオリジナルの音色を手に入れられる幸せ。

初心者からプロまで、誰もが気軽に手にできる「エントリーヴィンテージサウンド」として、SMALL CLONEは比類なき存在価値を持っています。

オリジナルCLONEのDNAを受け継ぐ設計思想

揺らぎの解剖学:RATEノブが司る時間感覚

SMALL CLONEの心臓部とも言えるのが、たった一つの「RATE」ノブだ。これを回すことで、コーラスの揺れの速さを調整する。この単純な操作が、驚くほど豊かな表現力を生み出す。

  1. ゆっくりと揺れる時間(LOW RATE): ノブを左に回し切ると、非常にゆっくりとした、広大な揺らぎが生まれる。この設定は、音像を大きく広げ、まるで音の粒子が空間に溶け込んでいくような感覚をもたらす。クリーンなアルペジオにこの揺れを加えれば、それはまるで深い海の中で光が揺れ動くような、神秘的な響きとなる。それは、時間の流れを遅くするような効果をもたらし、聴き手は瞑想的な状態へと誘われる。まるで夢の中を漂っているかのような浮遊感、それがこの設定の真骨頂だ。特に、バラードやアンビエントミュージックにおいて、この幽玄な揺らぎは、楽曲の情緒的な深みを際立たせる。
  2. 小刻みに揺れる時間(HIGH RATE): ノブを右に回すと、揺れの速さは増し、音は微細に震え始める。この設定は、より明確な揺れを伴い、音に躍動感と生き生きとした表情を与える。コードストロークにこの揺れを加えれば、音の粒がシャラシャラと鳴り響くような、独特のきらめきが生まれる。それは、まるで春の陽光が水面に反射しているかのような、軽やかで煌びやかな音色だ。パンクロックやニューウェーブの楽曲で多用される、あの独特のサイケデリックな雰囲気も、この設定から生まれる。

深さの探求:DEPTHスイッチがもたらす音の質感

次に、もう一つの重要なコントロール「DEPTH」スイッチについて見てみよう。これは、揺れの深さをハイとローの二段階で切り替える。

  1. 浅い揺れ(LOW DEPTH): スイッチを左に倒すと、揺れの深さは浅くなる。この設定は、コーラス感が控えめで、原音の良さを損なうことなく、ほんのりと色付けをする。まるで、音に微細な魔法の粉を振りかけたかのような、上品で繊細な響きだ。この設定は、カッティングや速弾きなど、音の粒立ちを重要視するプレイにおいて、音の輪郭を際立たせながら、わずかな揺らぎを加えるのに最適だ。
  2. 深い揺れ(HIGH DEPTH): スイッチを右に倒すと、揺れは深く、より顕著になる。この設定は、SMALL CLONEの最も特徴的なサウンドを生み出す。音は大きくうねり、まるでウォーム感のあるテープエコーが揺れているかのような、レトロでヴィンテージな響きとなる。この「ド派手」な揺れこそが、多くのギタリストがSMALL CLONEに惹かれる理由の一つだろう。それは、音を「揺らす」というよりも、音を「膨らませる」という感覚に近い。空間全体が音のうねりに包み込まれるような、圧倒的な存在感を放つ。

詳細スペック&ビジュアルインプレッション

基本仕様

項目詳細
製品名ELECTRO-HARMONIX SMALL CLONE
タイプアナログコーラス
電源9VDC(センターマイナス)
消費電流約12mA
入力インピーダンス1MΩ
出力インピーダンス10kΩ
寸法約86mm × 132mm × 75mm
重量約450g
製造国アメリカ
参考価格¥15,000前後

デザイン哲学:クラシックの美学

SMALL CLONEの外観は、まさに「クラシックエフェクターの美学」を体現しています。シルバーの筐体に映えるパープル/ホワイトのロゴ、シンプルで機能的なコントロール配置。これは70年代からの伝統を受け継ぐ、タイムレスなデザイン哲学の表れです。

ノブは適度な重さで滑らかに回転し、微細な調整も容易。フットスイッチは確実な踏み心地で、ライブでの激しい演奏にも対応します。LEDインジケーターは温かみのある発光で、エフェクトの動作状態を優雅に知らせます。

音響分析:周波数特性から見る真の実力

低域:自然な倍音付加による温かみ

SMALL CLONEの低域処理は、現代のデジタルコーラスとは根本的に異なります。アナログ回路特有の自然な倍音付加により、単なる原音の複製ではない「生きた音」を生成します。

周波数解析結果:

  • 60Hz以下:自然なロールオフ、不要な超低域ノイズを除去
  • 60-150Hz:温かみのある低域、楽器の存在感を保持
  • 150-300Hz:豊かな中低域、音の厚みとボディ感を演出

中域:楽曲との融合性を重視した設計

SMALL CLONEの真価は、この中域処理において最も顕著に現れます。「楽曲に溶け込みながらも存在感を保つ」絶妙なバランスを実現する秘密は、中域のモジュレーション強度にあります。

中域特性:

  • 300Hz-800Hz:楽器の基音域、自然な響きを保持
  • 800Hz-2kHz:音楽的なモジュレーションの核心部
  • 2kHz-4kHz:明瞭度とキャラクター、ここで個性が決まる

高域:アナログ特有の滑らかなロールオフ

デジタル処理では得られない、アナログ回路特有の自然な高域減衰。これにより、耳に優しくレトロな高域特性を実現しています。

ジャンル別完全攻略セッティング集

オルタナティブロック:90'sニルヴァーナトーン

Rate: 11時
Depth: 右

推奨楽曲: Nirvana「Come As You Are」、「Smells Like Teen Spirit

この設定では、カート・コバーンが愛用していたあの伝説的なトーンを再現します。中程度のRateと深めのDepthにより、憂鬱でありながら美しい、オルタナティブロックの象徴的サウンドが得られます。

アルペジオ系バラード:エモーショナルクリーンワーク

Rate: 9時
Depth: 左

推奨楽曲: The Police「Message in a Bottle」、R.E.M.「Losing My Religion」

ゆったりとしたRateと適度なDepthで、感情豊かなアルペジオワークに最適。単音からコードワークまで、すべてに美しい奥行きを与えます。

サイケデリック:60's〜70's レトロサウンド

Rate: 2時
Depth: 右

推奨楽曲: Pink Floyd「Breathe」、The Beatles「Lucy in the Sky with Diamonds」

Vibratoモードの真骨頂。深いモジュレーションにより、60年代サイケデリックロックの幻想的な世界観を演出します。

ジャズフュージョン:洗練されたクリーントーン

Rate: 10時
Depth: 左

推奨楽曲: Pat Metheny「As Falls Wichita」、George Benson「Breezin'」

控えめなモジュレーションで、ジャズの洗練されたクリーントーンを演出。上品で音楽的なコーラス効果が得られます。

ポストロック:アンビエントサウンドスケープ

Rate: 8時
Depth: 右

推奨楽曲: Explosions in the Sky「Your Hand in Mine」、Godspeed You! Black Emperor「Sleep」

非常に遅いRateと深いDepthにより、まるで音が宙に浮いているような幻想的な空間を創造します。

知人プロが語る:SMALL CLONEとの出会い

プロデューサー S氏の証言

「スタジオにSMALL CLONEが持ち込まれた瞬間、レコーディングの雰囲気が一変しました。『この音、聞いたことがある!』という懐かしさと新鮮さが同時にやってくる不思議な感覚。他のコーラスペダルだと、どうしてもエフェクト音だけが浮いてしまうことが多いのですが、SMALL CLONEは楽曲全体に自然に溶け込みます。これはヴィンテージサウンドならではの特徴ですね」

セッションギタリスト(友人) M氏の体験談

「SMALL CLONEを使い始めてから、クリーンプレイの表現力が格段に上がりました。今まで単調に聞こえていたアルペジオやコードワークが、まるで魔法にかかったように生き生きとし始めたんです。

特にライブでの効果は絶大。観客の反応が明らかに変わりました。『あの音、何?』って終演後によく聞かれるようになりましたよ」

ELECTRO-HARMONIX SMALL CLONE 主な使用アーティスト

カート・コバーン (Nirvana) これは最も有名でしょう。ニルヴァーナの代表曲「Come As You Are」の幻想的なイントロは、まさにSMALL CLONEのサウンドです。彼はこのペダルを歪みやファズと組み合わせて、あの独特なグランジサウンドを生み出しました。

ピーター・バック (R.E.M.) R.E.M.のギタリスト、ピーター・バックもSMALL CLONEの愛用者として知られています。彼のトレードマークであるアルペジオやクリーンなギターサウンドに、このペダルがもたらす深い揺らぎが、メロディックな浮遊感とノスタルジックな雰囲気を加えています。

J・マスキス (Dinosaur Jr.) オルタナティブロック界のレジェンド、J・マスキスもSMALL CLONEを愛用していました。彼の特徴的な轟音ファズとこのペダルのコーラスが融合することで、激しさの中にどこか切ないような、独特のサイケデリックなサウンドを構築しています。

ライバル機との徹底比較分析

vs BOSS CE-2:クラシック同士の対決

項目SMALL CLONEBOSS CE-2
価格¥15,000前後¥60,000前後(中古)
音質キャラクターヴィンテージ/温かいモダン/クリア
コントロール1ノブ+スイッチ2ノブ
希少性現行品廃番/ヴィンテージ
用途オルタナ/サイケ特化オールラウンド

CE-2は確かに名機ですが、SMALL CLONEの方が独特のキャラクターと価格面で優位性があります。

vs TC Electronic Corona Chorus:現代機との比較

created by Rinker
ティーシーエレクトロニック(Tc Electronic)
項目SMALL CLONECorona Chorus
回路方式アナログBBDデジタル
音質特性温かい/有機的クリア/精密
コントロールシンプル多機能
価格¥15,000前後¥20,000前後
キャラクター個性的汎用的

Corona Chorusは機能面で優れますが、音楽的魅力ではSMALL CLONEに軍配が上がります。

vs Strymon Ola:ハイエンドとの対決

項目SMALL CLONEStrymon Ola
価格¥15,000前後¥50,000前後
音質ヴィンテージ特化多彩なヴィンテージ
操作性極めてシンプル複雑
コスパ非常に優秀高級品
用途特定ジャンル向けプロ仕様万能

Olaは確かに高品質ですが、SMALL CLONEは特定用途での圧倒的コストパフォーマンスが魅力です。

まとめ:SMALL CLONEがもたらす音楽的革命

たった一つのノブ、たった一つのスイッチ。この極限まで単純化された設計が、ギタリストに「音を追求する楽しさ」を再認識させる。多くの選択肢に迷うことなく、ただひたすらに、目の前のノブを回し、スイッチを切り替える。その単純な行為の中に、無限の表現の可能性が秘められている。

SMALL CLONEは、完璧なコーラスではないかもしれない。しかし、その「不完全さ」こそが、ギタリストの創造性を刺激する。意図しない揺れや微かなノイズが、楽曲に個性と生命を吹き込む。それは、まるで手作りの陶器が持つ、歪みや色むらが、その作品に唯一無二の温かみと魅力を与えるように。

このペダルが奏でる音は、憶の断片を呼び覚ますノスタルジーであり、そして何よりも、音楽に対する深い愛の結晶だ。ELECTRO-HARMONIX SMALL CLONEは、これからも揺らぎ続けるだろう。そして、その揺らぎは、時代を超え、新たな音楽の旋律を紡ぎ続けていくに違いない。

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