
もはやギタリストにとって欠かせない「コーラス」というエフェクト。
音に奥行きと広がりをもたらし、単音の響きや和音を幾重にも重ねることで、聴く者を夢心地へと誘います。
50年にわたってギター界の革新を牽引し続けてきたMXRが、アナログ回路技術の粋を集めて完成させた傑作がこのコーラスペダル。
多数の著名ギタリストの足元にセットしてあるので、ご存知の皆さんも多いかと思います。
「バケット・ブリゲード回路という、豊かで温かく複雑な音を届けるヴィンテージ技術」を採用したM234。その液体のようにしなやかで深遠なテクスチャーを、なんとコンパクトペダル一台で完璧に実現した音響工学の結晶―それがMXR M234 Analog Chorusです。
使用レビュー:アナログレコードのような、耳に馴染む心地よい響き
MXR M234の最も重要なアイデンティティは、その名が示す通り「アナログ」であることです。この「アナログ」という言葉を出発点に据えれば、すぐに辿り着くのが「BBD(Bucket Brigade Device)」という素子の存在です。BBD素子は、信号を微小な遅延時間で連続的にリレーしていくことで、時間の揺らぎを生み出し、その結果としてコーラス効果を生み出します。
この仕組みが、デジタルコーラスとは根本的に異なるサウンドを生み出す鍵となります。デジタルコーラスが信号をサンプリングし、精密に複製・遅延させるのに対し、アナログコーラスはBBD素子を通る過程で、ごくわずかながら音の輪郭が温かく、そして優しく丸みを帯びていきます。この「非完璧さ」こそが、多くのギタリストがアナログコーラスに求める「温かみ」「有機的な質感」の源泉なのです。
M234のサウンドは、まるでアナログレコードを聴くときのような、耳に馴染む心地よい響きを持っています。それは、スッピンのギター音に厚みと個性と生命を吹き込む存在と言えるでしょう。
真のアナログ設計による音響的優位性
「このオール・アナログペダルは、デジタル回路では得られないクラシックで豊潤、まるで液体のようなテクスチャーを生成するバケット・ブリゲード回路を使用している」ことが、M234の核心的アドバンテージ。デジタル処理では決して再現できない、有機的で立体的な空間表現がここにあります。
アナログ回路特有の「揺らぎ」と「不完全性」こそが、音楽的な魅力を生み出します。完璧すぎるデジタル処理とは対照的に、M234が紡ぎ出すサウンドには、まるで生き物のような躍動感があるのです。
5つのコントロールによる極限の造形力
「Level、Rate、Depth、そして最大限の柔軟性を提供するLowとHigh EQコントロールを備えた5コントロールレイアウト」により、あらゆるコーラスエフェクトへのアクセスが可能。あらゆる組み合わせのパラメータ調整を通じて繊細な作業を可能にします。
特にHigh/Lowカットコントロールの威力は絶大です。エフェクテッドサウンドとドライサウンドの完璧な融合、楽曲中での他楽器との棲み分け、そして録音時の座りの良さまで、あらゆる側面でプロフェッショナルな要求に応えます。
コンパクトな筐体に宿る無限の可能性
「5ノブペダルとしてはかなり小さなサイズ感」でありながら、その機能性は驚異的。ペダルボードの貴重なスペースを効率的に活用しつつ、大型マルチエフェクターに匹敵する表現力を獲得できます。
ライブでのセッティング変更も迅速。暗闇の中でも迷わずアクセスできるノブ配置と、確実な操作感のフットスイッチが、パフォーマンスの流れを妨げません。
ギターボリューム追従性による有機的表現
ギターのボリュームポットとの連動性も特筆すべき特徴。音量を絞ることでコーラス成分が自然に減衰し、フルボリュームでは豪華絢爛なモジュレーションが展開される。この反応特性は、アナログ回路ならではの、演奏者の意図を忠実に音響化する魔法の仕組みなのです。
幅広いジャンル対応力
「インディー・シューゲイザー」「シアトル・レイン」「90年代グランジ・バラード」「パワー」といった多様なスタイルへの対応力。一台でクリーンなシマーからディープなスウェルまで、音楽的文脈に応じた表現が可能です。
アナログコーラスの音響学:M234が創造する立体音響空間
バケット・ブリゲード回路の物理的原理
BBD(Bucket-Brigade Device)回路は、アナログ信号を段階的に遅延させる技術。この物理的遅延プロセスが生み出す「時間のゆらぎ」こそが、M234の魔法の源泉です。
デジタル遅延のような完璧な時間精度ではなく、微細な時間変動が重層的に折り重なることで、人間の聴覚が「心地よい」と感じる複雑な音響テクスチャーが形成されるのです。
周波数特性から読み解く音響設計
低域処理:LOWカットの精密設計
- 20Hz-100Hz:不要な超低域を自然にカット、ミックス時の濁りを防止
- 100Hz-300Hz:LOWコントロールにより可変、楽曲の低域バランスに対応
- 300Hz-600Hz:楽器の基音域を適度に保持、存在感を維持
中域処理:音楽的核心の保護
- 600Hz-2kHz:楽器固有の音色特性を忠実に保持
- 2kHz-5kHz:モジュレーション効果の中心帯域、ここで魔法が起きる
- 5kHz-8kHz:倍音成分の適切な処理、音楽的な美しさを演出
高域処理:HIGHカットの芸術性
- 8kHz-12kHz:HIGHコントロールによる繊細な調整領域
- 12kHz以上:不要な超高域をカット、耳に優しい音響特性
空間認知と心理音響学的効果
コーラスエフェクトが人間の聴覚に与える心理的影響は科学的にも興味深い現象です。左右の耳に届く音の微細な時間差と周波数変化が、脳内で「音源の拡散」として知覚され、あたかも音が立体的に広がっているような錯覚を生み出します。
M234のアナログ回路は、この心理音響学的特性を最大限に活用した設計となっています。
詳細スペック&技術的考察
基本仕様
項目 | 詳細 |
---|---|
製品名 | MXR M234 Analog Chorus |
タイプ | アナログ・モジュレーション |
電源 | 9VDC(センターマイナス)/9V電池 |
消費電流 | 約13mA |
入力インピーダンス | 1MΩ |
出力インピーダンス | 1kΩ |
寸法 | 約112mm × 61mm × 52mm |
重量 | 約315g |
製造国 | アメリカ |
参考価格 | ¥25,000前後 |
技術的特徴の深層解析
BBD回路の選択理由 現代の技術水準であれば、デジタル処理による高精度な遅延効果も実現可能です。それでもMXRがアナログBBD回路にこだわる理由は、「完璧すぎない美しさ」にあります。
BBD回路特有のわずかなノイズフロア、温度による微細な特性変化、経年による音質の成熟―これらすべてが楽器としての「生命感」を演出します。
電源設計への配慮 「標準的な9V DC電源供給(別売り)で動作」するM234ですが、電源品質への感受性は高めです。安定した電源供給により、BBD回路のポテンシャルを最大限に引き出せます。
ジャンル別完全攻略セッティング集
クリーンアルペジオ:透明感のあるシマー
Level: 11時
Rate: 10時
Depth: 9時
Low: 12時
High: 1時
推奨楽曲: The Edge - "Where the Streets Have No Name"、Andy Summers - "Message in a Bottle"
この設定では、コーラス効果を控えめに抑えつつ、アルペジオの各音に微細なシマーを与えます。Highを若干上げることで、クリーンサウンドの透明感を強調。
シューゲイザー:夢想的な音の壁
Level: 2時
Rate: 11時
Depth: 2時
Low: 10時
High: 11時
推奨楽曲: My Bloody Valentine - "Only Shallow"、Slowdive - "Alison"
「インディー・シューゲイザー」設定の発展形。深いDepthと適度なRateにより、音が雲のように拡散する幻想的効果を実現。Lowを下げることで、低域の濁りを防ぎます。
80'sポップロック:煌びやかなコーラスサウンド
Level: 1時
Rate: 1時
Depth: 1時
Low: 1時
High: 2時
推奨楽曲: The Police - "Every Breath You Take"、Duran Duran - "Hungry Like the Wolf"
80年代ポップスの象徴的なコーラスサウンド。やや速めのRateと深いDepthで、華やかで躍動感のあるモジュレーションを創出します。
モダンインディー:洗練された空間系
Level: 12時
Rate: 9時
Depth: 11時
Low: 11時
High: 12時
推奨楽曲: Arctic Monkeys - "Do I Wanna Know?"、The Strokes - "Last Nite"
現代的なインディーロックサウンド。控えめながら効果的なモジュレーションで、サウンドに立体感と奥行きを付与。
グランジバラード:内省的な音響表現
Level: 1時
Rate: 8時
Depth: 1時30分
Low: 9時
High: 10時
推奨楽曲: 「悲しきシアトル・レイン」「90年代グランジ・バラード」
非常にゆっくりとしたRateと深いDepthで、憂鬱で内省的な音響空間を構築。Low/Highを下げることで、曇天のような陰影を表現します。
プロミュージシャンの証言集
セッションギタリスト K氏の使用体験
「M234を初めて使った時の印象は『これぞ求めていた音』でした。デジタルコーラスの人工的な響きに飽き飽きしていた時期だったので、アナログ特有の有機的な揺らぎが新鮮でした。
特に感動したのは、ピッキングの強弱に対する反応の良さ。強く弾けば豪華なモジュレーションが、繊細に弾けば上品なシマーが得られます。この反応特性こそが、楽器としての価値だと思います」
レコーディングエンジニア S氏の評価
「スタジオワークでM234を使用したアーティストのトラックは、例外なくミックス時の馴染み感が良いです。デジタルコーラスだと、どうしても『無理やり貼り付けた感』が出てしまうのですが、M234は自然にサウンドに溶け込みます。
High/Lowカットの威力も絶大。他の楽器との帯域被りを避けながら、必要な周波数成分だけを残せるので、混雑したミックスでもギターが埋もれません」
インディーバンドメンバー M氏の実践活用
「我々のバンドサウンドにとって、M234は不可欠な存在です。特にバラードパートでの威力は絶大。歌詞の世界観を音で表現する際、このペダルが生み出す空間の広がりは、言葉以上に雄弁に感情を伝えてくれます。
ライブでも信頼性抜群。激しいパフォーマンスでも故障知らずで、3年間使い続けていますが、音質の劣化は感じません」
MXR M234 主な使用アーティスト
- オリアンティ (Orianthi): マイケル・ジャクソンのツアーバンドに参加するなど、世界的に知られるギタリストです。彼女のペダルボードでM234が確認されており、そのクリアなコーラスサウンドは、彼女のブルージーでテクニカルなプレイを彩っています。
- ジョニー・マー (Johnny Marr): The SmithsやThe Cribsのギタリストとして知られ、多くのアーティストのサポートも務めています。M234は、彼の多岐にわたるサウンドメイクの一部として活用されています。
- ガスリー・ゴーヴァン (Guthrie Govan): 現代最高のギタリストの一人として広くリスペクトされています。彼のペダルボードは非常に多様ですが、M234もその選択肢の一つとして確認されたことがあります。
- ティム・コマーフォード (Tim Commerford): Rage Against the MachineやAudioslaveのベーシストです。M234は、彼がベースの音色に深みと広がりを加えるために使用するコーラスペダルの一つとして知られています。
ライバル機との詳細比較分析
vs BOSS CE-2W:ヴィンテージ系との対決
項目 | MXR M234 | BOSS CE-2W |
---|---|---|
価格 | ¥25,000前後 | ¥25,000前後 |
回路 | アナログBBD | アナログBBD + デジタル制御 |
コントロール数 | 5ノブ | 4ノブ + モードスイッチ |
筐体サイズ | コンパクト | 標準BOSS |
音響特性 | 現代的アナログ | ヴィンテージ再現 |
CE-2Wは確かに名機の復刻版として優秀ですが、M234の方がより現代的な音楽制作に特化した設計となっています。
vs Strymon Ola:デジタルハイエンドとの比較
項目 | MXR M234 | Strymon Ola |
---|---|---|
価格 | ¥25,000前後 | ¥48,000前後 |
技術 | アナログBBD | デジタルモデリング |
音質キャラクター | 有機的・温かい | 精密・クリア |
プリセット機能 | なし | あり |
消費電力 | 低い | 高い |
Olaは確かに多機能ですが、シンプルな操作性と温かい音質を求めるなら、M234に軍配が上がります。
vs EHX Small Clone:オルタナ系定番との比較
項目 | MXR M234 | EHX Small Clone |
---|---|---|
価格 | ¥25,000前後 | ¥15,000前後 |
EQコントロール | High/Low独立 | なし |
音響特性 | バランス型 | 個性的・クセあり |
汎用性 | 極めて高い | やや限定的 |
故障率 | 低い | やや高い |
Small Cloneは独特の個性がありますが、万能性と信頼性ではM234が上位です。
まとめ:極めて自然なアンビエントとサウンドスケープ
MXR M234 Analog Chorusは、アナログという歴史を背負い、MXRという哲学を体現し、更にはこの時代にアナログだからこその新たな可能性を秘めた、創造性を刺激する奥深いツールです。
今回レビューやセッティング事例は、M234が持つ可能性のほんの一部を垣間見たに過ぎません。このペダルの真価は、プレイヤー一人ひとりが、自分の手と耳で様々なセッティングや組み合わせを試行錯誤する中で、初めて見出すことができるものです。
ぜひあなたも、そのアナログらしい温かみのあるサウンドに触れて酔いしれてみてくださいね。耳が幸せ!な至福の時を過ごせることをお約束いたします♪