
「ディレイとリバーブの、理想的な融合」
多くの空間系ペダルが「多機能さ」や「エディットの深さ」を競い合う中で、このペダルが提示したのは「圧倒的な音楽的調和」でした。
ディレイとリバーブという、ギタリストにとって最も身近な二つの要素が、まるで最初から一つの生命体であったかのように溶け合う――。
2つのエフェクトが互いに干渉することなく、むしろ相乗効果で残響空間を立体的に構築していく様は、まさに神秘的!
アメリカ合衆国オハイオ州を拠点とする革新的ブティックペダルメーカー、EARTHQUAKER DEVICES。
その創業者Jamie Stillmanが追求してきたのは、「使いやすさと音楽性の完璧なバランス」。
そして2013年に誕生したDispatch Masterは、その哲学を体現するベストセラーとして、世界中のギタリストから絶大な支持を集めています。
使用レビュー:ディレイとリバーブが調和する「アンビエント・ユニット」
ディレイとリバーブの絶妙な融合
Dispatch Masterの最大の魅力は、ディレイとリバーブが独立したエフェクトとしてではなく、一つの「アンビエント・ユニット」として設計されている点です。
通常、別々のペダルを直列に繋ぐと、音が飽和しすぎて輪郭がボヤけたり、位相の問題で不自然な響きになることがありますが、このペダルにはそれがありません。どれだけ深くかけても、原音の芯がしっかりと残り、背後に美しい光の輪(Halo)が広がるような、極めて音楽的なミックスが施されています。
直感的な操作性を極めた4ノブ・インターフェース
複雑なメニュー階層や隠しコマンドは一切存在しません。
- Time: ディレイタイム(0ms〜1500ms)
- Repeats: ディレイの回数(発振しない設計)
- Reverb: リバーブの深さと広がり
- Mix: エフェクト全体の音量バランス
この4つのノブを直感的に回すだけで、タイトなスラップバックから、宇宙空間のような広大なドローンサウンドまで、瞬時にアクセス可能です。
デジタルなのに「冷たくない」独自の音響設計
Dispatch Masterはデジタル・エフェクトですが、そのサウンドキャラクターは驚くほどアナログライクです。
ディレイの減衰音は高域が緩やかにロールオフされ、ヴィンテージのアナログディレイやテープエコーを彷彿とさせる「耳馴染みの良さ」を持っています。
リバーブ成分も、金属的な不自然さが排除されており、ホールリバーブの豊かさとプレートリバーブの煌めきを抽出したような、孤高の質感を誇ります。
最大1.5秒のロングディレイが切り拓く新境地
コンパクトな筐体からは想像もつかない、最大1500ms(1.5秒)という長大なディレイタイム。
これにより、アンビエントやポストロックで多用される「ウォール・オブ・サウンド」を構築することが容易になります。ゆったりとしたフレーズに長いディレイを乗せ、そこにリバーブを深くかけることで、ギター一本でオーケストラのような壮大な音像を作り出すことができます。
「自己発振しない」という潔い設計思想
多くのディレイペダルは、フィードバックを最大にすると制御不能なノイズ(発振)を引き起こします。しかし、Dispatch MasterはRepeatsを最大にしても発振しません。
これは設計上の「制約」ではなく、「演奏性を最優先した配慮」です。最大設定にしても、無限に近いフィードバックが美しく持続し、演奏を破綻させることなくアンビエントなパッドサウンドとして機能し続けます。
Flexi-Switch™テクノロジーによる柔軟なスイッチング
EQD独自の「Flexi-Switch」を搭載。
- ラッチ動作: 通常のクリックでオン/オフを切り替え。
- モーメンタリー動作: スイッチを長押ししている間だけエフェクトがオンになり、離すとオフになります。曲の特定のフレーズだけに深いリバーブをかけたい、あるいは最後の音だけをディレイで飛ばしたいといった、テクニカルな演出が足元一つで完結します。
高いヘッドルームとローノイズなプロ仕様
スタジオユースにも耐えうる、極めて低いノイズフロアを実現しています。ハイゲイン・ディストーションの後段に繋いでも、エフェクト音が濁ることなくクリアに出力されます。
また、バッファードバイパス(エフェクトオフ時も残響が残る仕様)ではなく、電子リレー方式のトゥルーバイパスを採用しているため、オフ時の音質劣化も最小限です。
より豊かなアンビエンスを追求するコンセプト
音楽的調和を追求した「1+1=3」の理論
空間系エフェクトにおいて、最も難しいのは「空間の埋め方」です。Dispatch Masterの開発チームは、ディレイのフィードバック音の中にリバーブを浸透させる独自のアルゴリズムを構築しました。
これにより、ディレイの一打一打がリバーブを纏い、空間の中で減衰していく様は、まるで水面に広がった波紋が霧に溶けていくような、グラデーションの美しさを感じさせます。
プレイヤビリティを重視した「引き算の美学」
多機能なデジタルペダルが溢れる現代において、EQDがあえて機能を絞り込んだのは、「ギタリストが演奏に集中できる環境」を作るためです。
Dispatch Masterには、音色を台無しにするような「極端な設定」が存在しません。どの位置にノブがあっても、必ず「使える音」が出る。この安心感こそが、多くのプロギタリストがこのペダルを信頼し、ボードから外さない理由です。
詳細スペック&ビジュアルインプレッション
基本仕様
| 項目 | 詳細 |
| 製品名 | EarthQuaker Devices Dispatch Master (V3) |
| タイプ | デジタル・ディレイ & リバーブ |
| 最大ディレイタイム | 1,500ms |
| 電源 | 9V DC(センターマイナス)/ 78mA |
| 寸法 | 121mm x 64mm x 57mm |
| 製造国 | アメリカ(オハイオ州アクロン) |
| 参考価格 | ¥30,000〜40,000前後 |
デザインと質感
マットな質感の筐体に、Dispatch Masterを象徴する「青と白のグラフィック」。一目でそれと分かるポップな電話機のデザインです。ノブの操作感は適度に重みがあり、微調整がしやすいトルクに設定されています。
また、トップマウント・ジャックを採用しているため、ペダルボード内での横幅を節約でき、パッチケーブルの取り回しも非常にスマートに行えます。
ジャンル別完全攻略セッティング集
アンビエント・ポストロック:銀河を彷徨う残響
設定:
- Time: 12時
- Repeats: 3時
- Reverb: 4時
- Mix: 2時
宇宙空間のような広大な広がりを作る設定。リバーブを深く設定し、ディレイのフィードバックを多めにすることで、音が層のように重なり、幻想的なパッドサウンドが得られます。ボリューム奏法(バイオリン奏法)との相性は抜群です。
ブルース/ジャズ:奥行きを与える「隠し味」
設定:
- Time: 9時
- Repeats: 8時
- Reverb: 10時
- Mix: 9時
空間にわずかな厚みを加える、常時オン用のセッティング。ディレイをスラップバック的に短く設定し、リバーブで角を丸めることで、ヴィンテージ・アンプのような芳醇な奥行きが生まれます。
シューゲイザー:音の壁(Wall of Sound)
設定:
- Time: 10時
- Repeats: 4時
- Reverb: 最大
- Mix: 3時
歪みペダルの後段に配置し、すべてをリバーブの渦に飲み込ませる設定。Repeatsを高くしても音が破綻しない特性を活かし、轟音の中でも美しさを保った「音の壁」を構築できます。
歌モノ/ポップス:際立つメロディライン
設定:
- Time: 曲のBPMに同期
- Repeats: 10時
- Reverb: 12時
- Mix: 11時
リードギターに最適な、王道のディレイ&リバーブ。原音を邪魔しない程度にMixを調整し、リバーブで歌に寄り添うような温かみを加えます。アルペジオでの使用も推奨。
プロが語る:Dispatch Masterとの出会い
レコーディングエンジニア S氏の証言
「空間系ペダルは、特にHarmonics(倍音)の整理が完璧で、プラグインのリバーブを後から足す必要がないほど完成された音が録れます。
ギタリストが持ってきたボードにこれがあると、正直ホッとしますね。」
ツアーギタリスト T氏の体験談
「世界ツアーでどんなアンプを貸し出されても、Dispatch Masterがあれば自分のトーンを作れる。以前は複雑なディレイ・ワークステーションを使っていましたが、結局ライブ中にいじるのはこれくらいシンプルなもの。
足元のFlexi-Switchで、フレーズの語尾だけを飛ばす演出ができるようになってから、演奏の表現力が格段に上がりました。」
Dispatch Master 主な使用アーティスト
Ed O'Brien(エド・オブライエン) - Radiohead
現代最高峰のアンビエント・ギタリストの一人であるエドは、Dispatch Masterの長年の愛用者として知られています。
- 活用シーン: 彼はこのペダルを、単なる残響ではなく「ギターをシンセサイザーのようなテクスチャーに変えるツール」として使用しています。特にアルバム『A Moon Shaped Pool』以降のライブセットでは欠かせない存在です。
Mark Speer(マーク・スピア) - Khruangbin
独自のメロウなクリーントーンが象徴的なKhruangbinのフロントマン。
- 活用シーン: 彼の音色の核は、常時オンのワウと、このDispatch Masterによる絶妙な残響にあります。リバーブとディレイを薄く、しかし深くかけることで、あの独特の「砂漠の夜」のような乾燥しつつも潤いのあるトーンを生み出しています。
Chris Shiflett(クリス・シフレット) - Foo Fighters
スタジアムロックの最前線で戦うクリスも、このコンパクトなペダルの実力を認めています。
- 活用シーン: 激しい歪みの中でも音が濁らないDispatch Masterのヘッドルームの高さを活かし、ソロパートでの奥行き出しに使用しています。
Devin Townsend(デヴィン・タウンゼンド)
メタル界の奇才であり、巨大な音の壁を作るプロフェッショナル。
- 活用シーン: 彼の壮大なサウンドスケープにおいて、Dispatch Masterの「発振せずに無限に持続する残響」は、クリーンパートの浮遊感を演出する重要なパーツとなっています。
Sarah Lipstate(サラ・リプステイト) - Noveller
数々のエフェクターを駆使して「一人オーケストラ」を実現するギタリスト。
- 活用シーン: 彼女の楽曲制作において、1.5秒のロングディレイは必須。ループの上から音を重ねる際、Dispatch Masterの持つ「音の分離の良さ」が、多層的なアンサンブルを構築する鍵となっています。
Tyler Bryant(タイラー・ブライアント) - Tyler Bryant & The Shakedown
ブルースロックの若き巨匠。
- 活用シーン: スライドギターに薄くDispatch Masterをかけることで、ヴィンテージ・アンプのリバーブだけでは到達できない、幻想的なブルーストーンを創出しています。
Stuart Braithwaite(スチュアート・ブレイスウェイト) - Mogwai
ポストロックの先駆者であるMogwaiのリーダー。
- 活用シーン: 静寂から爆音へと移行する彼らのダイナミクスにおいて、空間を瞬時に埋め尽くすDispatch Masterの密度ある残響が、ドラマティックな展開を支えています。
ライバル機との徹底比較分析
vs BOSS RV-6 Reverb:定番多機能機との比較
| 項目 | Dispatch Master | BOSS RV-6 |
| 価格 | ¥40,000前後 | ¥20,000前後 |
| 回路方式 | デジタル(アナログ・ドライスルー) | デジタル |
| 最大ディレイタイム | 1,500ms | 約1,000ms(+Delay時) |
| 音色キャラクター | 有機的・アンビエント | クリア・現代的 |
| 操作性 | 1モード完結(迷いなし) | 8モード切り替え |
| 自己発振 | しない(無限の持続) | する |
| 用途 | プロ仕様/空間の深淵を追求 | 汎用/あらゆる残響を網羅 |
RV-6はリバーブの教科書とも言える名機ですが、Dispatch Masterは「ディレイとリバーブが完全に溶け合う」という一点において、RV-6の「+Delay」モードを遥かに凌駕する音楽的な深度を持っています。
vs Strymon Flint:ハイエンド複合機との対決
| 項目 | Dispatch Master | Strymon Flint |
| 価格 | ¥40,000前後 | ¥58,000前後 |
| エフェクト構成 | ディレイ + リバーブ | トレモロ + リバーブ |
| フットスイッチ | 1個(同時オン/オフ) | 2個(独立操作可能) |
| 音質傾向 | オーガニック/ドリーミー | スタジオクオリティ/Hi-Fi |
| 付加機能 | Flexi-Switch(長押し機能) | プリセット保存可(要外部SW) |
| サイズ | コンパクト | ラージ |
| 特徴 | 「音の層」を作る彫刻機 | 伝統的サウンドの高品質再現 |
Flintは「歴史的な残響」の再現に特化していますが、Dispatch Masterは「まだ見ぬ新しい空間」を創り出すためのツールです。ディレイ成分が含まれるDispatch Masterの方が、より現代的なアンビエント・サウンドを構築しやすくなっています。
vs Keeley Caverns V2:ブティック複合機対決
| 項目 | Dispatch Master | Keeley Caverns V2 |
| 価格 | ¥40,000前後 | ¥35,000前後 |
| スイッチング | 一括制御(シンプル) | ディレイ/リバーブ独立 |
| ディレイタイプ | 1種類(究極の調和) | 3種類(シマー等含む) |
| 最大ディレイタイム | 1,500ms | 650ms |
| 発振特性 | 音楽的に持続する | 伝統的な自己発振 |
| サイズ | 標準的(省スペース) | 中型(スペースが必要) |
| 特徴 | 「混ぜる」ことの完成度 | 個別のオン/オフが可能 |
Cavernsはディレイとリバーブを個別にオン/オフできる利便性がありますが、Dispatch Masterは「二つを混ぜた時の音の良さ」で勝負しています。1.5秒という圧倒的なディレイタイムも、EQDがアンビエントの王座を守る大きな要因です。
まとめ:余韻をデザインする、最も身近な選択肢
Dispatch Masterがこれほどまでに愛される理由は、それが単なるエフェクターではなく、静寂の中に「次の音」を美しく配置するための精密なデザインツールだからです。
多くの空間系ペダルが音を「加工」することに執心する中で、このペダルは音と音の隙間に流れる「時間」そのものを美しく彩ることに特化しています。1500msもの広大なディレイタイムと、原音を包み込むようなリバーブが織りなすその響きは、ギター一本で描き出せる表現の境界線を軽々と塗り替えてしまいます。
複雑なエディットに疲弊したギタリストにとって、ノブを少し回すだけで理想のアンビエントが手に入る体験は、まさに救済と言えるでしょう。自己発振を排した潔い設計、デジタルなのに血の通った温かさ、そして足元に宇宙を呼び寄せる圧倒的な包容力。
Dispatch Masterは、インスピレーションを余韻という名の芸術へと昇華させる、最も身近で、最も確かな選択肢のひとつです!





