
かつてラックシステムでしか成し得なかった『三相コーラス』をワンペダルで実現!
1980年代、マイケル・ランドウやルカサーといった伝説的スタジオミュージシャンたちが、巨大なラック機材を駆使して作り上げた、あの「どこまでも深く、透き通るような立体的な広がり」。それが、このコンパクトなペダル一台から溢れ出す――。にわかには信じがたい体験。
ニューヨークに本社を構え、デジタル・エフェクトの先駆者であり、ラック・プロセッサーの頂点に君臨し続けるEVENTIDE。
彼らが提唱する「TriceraChorus(トライセラコーラス)」は、ただの揺らぎの追加ではありません。3つの独立したモジュレーション・ディレイ・ラインが複雑に絡み合い、音の「厚み」と「奥行き」を物理的に構築し直す、まさに空間の再定義です。
今回は、3つの独立したコーラスボイスによる前代未聞のサウンドスケープ、その秘密を徹底解剖していきます!
使用レビュー:サウンドの粒子が三次元で美的に拡散していく
3つの独立したコーラス・ボイスが生む「球体的な音場」
TriceraChorusの核心は、その名の通り「3つのボイス(Left、Center、Right)」にあります。一般的なコーラスが1つの信号を揺らすのに対し、このペダルは3つの異なる位相で揺らぎを生成し、それらを巧みにミックスします。
これにより、音が左右に揺れるだけでなく、前後左右、さらには上下にまで広がるような、圧倒的な立体感が生まれます。スカスカにならない、前後・上下を含めた「球体的な音場」が手に入ります。
3つのモードが描き出す、三者三様の「揺らぎの美学」
TriceraChorusのフロントパネル左上にあるモード切り替えノブ。これが、このペダルの性格を決定づける「3つの揺らぎ」の切り替えスイッチです。一言でコーラスと言っても、それぞれ全く異なる音響心理的効果を使い分けることができます。
- Chorusモード: まさに「80年代の正解」がここにあります。3つのディレイラインが複雑に干渉し合い、クリーントーンにシルクのような光沢と、触れれば壊れそうな繊細な奥行きを与えます。
- Vibratoモード: ピッチの揺らぎに特化したこのモードは、よりダイレクトで有機的な質感が特徴。3つのボイスがわずかに位相をずらしてピッチを揺らすことで、単なるビブラートを超えた「空間が呼吸している」かのような生命感溢れるトーンを演出します。
- Choraleモード: これこそがEVENTIDEの真骨頂。クラシックなラックマウント式の三相コーラスを象徴するモードで、教会で歌う聖歌隊(コラール)のように、荘厳で重厚な広がりを生み出します。まるで背後に数台のアンプが並んでいるかのような、圧倒的な情報量のサウンドは圧巻の一言。
「Swirl」スイッチによるサイケデリックな次元上昇
フットスイッチを長押し、あるいは専用のSwirlスイッチを入れた瞬間、サウンドはさらなる深淵へ。
Swirlは、フェイザーのようなフランジャーのような、それでいてどれとも違う「宇宙的なうねり」を付加します。この独特の質感が、クリスタル・クリーンのアルペジオを、瞬時にして幻想的なサウンドスケープへと変貌させるのです。
Bucket Brigade(BBD)スタイルとデジタルの完全融合
EVENTIDEは長年のデジタル技術を駆使し、アナログBBD回路が持つ「温かみのある減衰」と「音楽的なフィルタリング」を完璧にシミュレートしました。
しかし、単なる懐古趣味ではありません。アナログ特有のノイズを完全に排除しつつ、現代的なワイドレンジを実現。ヴィンテージの「質感」と、デジタルの「透明感」という、相反する要素を高い次元で両立させています。
驚異の「Detune」コントロール
コーラスをかけず、ピッチをわずかにずらすだけの「Detune(デチューン)」機能。これが実に素晴らしい。
人間の耳は5セント(半音の1/20)以下のピッチ差を「音程の違い」としてではなく、「空間の広がり」として認識します。
音を揺らすのではなく、厚みだけを増強するこの手法は、モダンなリードプレイやバッキングに最適です。12弦ギターのような煌びやかさや、ダブルトラッキングのような太さを、ノブ一つでコントロールできるのです。
5つのプリセットと無限のカスタマイズ
コンパクトな見た目とは裏腹に、本体内に5つのプリセットを保存可能。
「クリーン用の薄いデチューン」「80's全開の深い三相コーラス」「Swirlを効かせた飛び道具」など、ライブ中に瞬時に切り替えられます。さらに、専用アプリ「Eventide Device Manager」を使用すれば、USB経由で詳細なエディットやプリセット管理も自由自在です。
入出力の柔軟性とMIDI対応
モノラル入力、ステレオ出力はもちろん、TRSケーブルを使用したステレオ入力にも対応。
さらにMIDI入力を備えているため、外部スイッチャーからの制御も完璧です。プロの現場で求められる「システムの一部としての親和性」が極めて高く設計されています。
エンジニアリングの粋を集めた「H9」譲りのアルゴリズム
このペダルに搭載されているアルゴリズムは、世界中のスタジオで愛用される「H9 Harmonizer」の直系です。
解像度の高い演算処理により、どれだけ深くエフェクトをかけても芯がぼやけません。ギターの繊細なタッチを殺すことなく、音楽的な装飾だけを付加する。その「品格」こそがEVENTIDEの証明です。
80年代ラック・サウンドのDNAを現代へ

巨大なシステムを手のひらサイズに
かつて、これほどの厚みを持つコーラスサウンドを得るためには、ラックマウントされた「Eventide H3000」や「Dytronics CS-5」といった高価な機材と、複雑なミキシングが必要でした。
TriceraChorusは、その複雑なルーティングを内部で完結させています。エンジニアが数時間かけて作り上げたサウンドを、たった一踏みで再現できる。これはギタリストにとって、真の意味での解放と言えるでしょう。
コーラス・アンサンブルの再定義
一般的なコーラスは「原音 + 揺れた音」ですが、TriceraChorusは「原音 + 左の揺らぎ + 中央の揺らぎ + 右の揺らぎ」という構造を持っています。この3つの揺らぎが互いに打ち消し合うことなく、絶妙なバランスで混ざり合うことで、耳に痛くない、滑らかでシルキーなトーンが完成するのです。
詳細スペック&ビジュアルインプレッション
基本仕様
| 項目 | 詳細 |
| 製品名 | EVENTIDE TriceraChorus |
| タイプ | デジタル・トリプル・コーラス / デチューン |
| 寸法 | 102mm(W) x 108mm(D) x 43mm(H) |
| 重量 | 約480g |
| 接続端子 | Input(TRSステレオ対応), Output 1 & 2, Expression, USB, MIDI |
| 参考価格 | ¥40,000前後 |
機能美に満ちたデザイン
落ち着いたミントグリーンの筐体は、爽やかでありながらプロフェッショナルな重厚感を漂わせます。
ノブの配置は非常に合理的で、上段の3つ(Mix, Rate, Detune)が音の根幹を、下段の3つ(Left, Center, Right)が各ボイスの深さを司ります。
特筆すべきはLEDの視認性。エフェクトのON/OFFだけでなく、セカンドパラメータの状態やプリセットの番号を直感的に把握できるよう工夫されています。
モード別・ジャンル別完全攻略セッティング集
TriceraChorusは、選択するモードによってノブの役割や音の混ざり方が劇的に変化します。その特性を突いた、実践的なセッティング案がこちらです。
80's LA Studio Sound:極上のクリスタル・クリーン
- Mode: Chorale(三相コーラスの真髄)
- Rate: 9時(ゆったりとしたうねり)
- Detune: 10時(わずかな厚みを追加)
- Left / Center / Right: すべて1時
- Swirl: OFF
【解説】 「Chorale」モードは、まさに80年代のラックシステムを象徴するサウンドです。3つのディレイラインが均等に、かつ複雑に絡み合うことで、単一のコーラスでは不可能な「音の壁」を作ります。リバーブを深めにかければ、スティーヴ・ルカサーのような、どこまでも透明でリッチなアルペジオトーンが完成します。
Lo-Fi & Organic Movement:情緒的な揺らぎ
- Mode: Vibrato(ピッチ変調に特化)
- Rate: 11時
- Detune: 最小
- Left / Center / Right: 12時
- Swirl: ON(うねりを加速)
【解説】 「Vibrato」モードに振り切ることで、ピッチの揺れだけを抽出します。TriceraChorusがユニークなのは、ビブラートであっても「3つのボイス」が干渉し合うため、単調な音程変化ではなく、磁気テープが伸び縮みするような、有機的でノスタルジックな質感が得られる点です。インディーロックやLo-Fi HipHop的なアプローチに最適です。
Modern Fusion & Solo Lead:音の芯を残す厚み
- Mode: Chorus(伝統的なコーラス)
- Rate: 8時
- Detune: 2時(デチューンを主役に)
- Left / Center / Right: Centerのみ最大、L/Rは10時
- Swirl: OFF
【解説】 「Chorus」モードをベースに、Detune(ピッチの微細なズレ)を強調した設定です。リードプレイにおいて、音を揺らしすぎるとピッチ感が損なわれますが、この設定ではCenterボイスを強めることで音の芯を維持しつつ、左右のデチューン成分で音像を巨大化させます。歪みペダルの後段に繋いでも音が濁りません。
Psychedelic Warp:次元を歪めるトリップサウンド
- Mode: Chorale(重厚な変調)
- Rate: 2時(速めの回転)
- Detune: 12時
- Left / Center / Right: すべて最大(フル・モジュレーション)
- Swirl: ON(必須)
【解説】
「Chorale」モードの重厚な広がりに、Swirlによる位相変化を叩き込む設定です。もはやコーラスの枠を超え、ロータリースピーカーが暴走したような、あるいは宇宙空間を遊泳するような強烈なうねりが発生します。ロングサステインのソロや、飛び道具的なSEとして圧倒的な存在感を放ちます。
プロの現場から届いたリアルな声
スタジオミュージシャン S氏の証言
「今までは、コーラスをかけると音が痩せたり、ミックスの中で埋もれてしまうのが悩みでした。でもTriceraChorusは違う。三相のボイスがしっかりとレンジを確保してくれるので、音が太くなったまま広がるんです。特にレコーディングでステレオ出力した時の広がりは、もはや反則級ですね。」
ライバル機との徹底比較分析
| 項目 | EVENTIDE TriceraChorus | BOSS CE-2W | Strymon Ola |
| 方式 | デジタル(3ボイス) | アナログ(BBD) | デジタル(dSP) |
| 音色の傾向 | 立体的・モダン・広大 | 温かい・レトロ・素朴 | クリア・高品位・多彩 |
| プリセット | 5つ | なし | 1つ |
| デチューン | あり(専用ノブ) | なし | あり |
| 汎用性 | 極めて高い | 特定の味付けに強い | バランスが良い |
まとめ:他では真似できない、没入型の絵画的コーラス
正直に言えば、今の時代、1万円以下のコーラスでもそれなりの音は鳴ります。
(でも、どこか物足りなさを感じるでしょう?)
しかし、TriceraChorusから放たれる「Chorale」モードの荘厳な密度や、指先のタッチに磁気のように吸い付く「Vibrato」の艶を知ってしまうと、もう後戻りはできません。それは、安価なプリント画と、油彩の筆跡が生々しく残る原画ほどの決定的な「情報の濃度差」があるから。
このペダルが教えてくれるのは、音を揺らすことの快感だけではありません。
3つのボイスが織りなす干渉の美しさを知ることで、ギタリストとしての「聴く力」そのものが研ぎ澄まされていく。ピッチをわずかにずらす「Detune」のノブを回すたび、音の壁が物理的に膨らんでいく高揚感。これこそが、かつて巨額の費用を投じてラックシステムを組んだ先人たちが追い求めた、至福のサウンドスケープの正体なのです。



