
水平線から押し寄せる「うねり」や、表情を変え続ける川のせせらぎ。
自然界のエネルギーは、決して一直線には進行しません。その不規則な「波」の隙間にこそ、生命の鼓動や神秘的な「サムシング」が宿っています。
効率を重視する直線的な世界で、私たちの魂が救いを見出すのは、こうした不確かな揺らぎの中にあるのではないでしょうか?
この、「生命のリズム」を音に吹き込むのがヴィブラートです。無機質な電気信号にピッチの震えを加えた瞬間、音は呼吸を始めます。
そして、その現象を最も純粋に描き出すのがBOSS VB-2W。アナログBBD回路が紡ぐ重厚で繊細なうねりは、自然界の広大なリズムと共鳴します。
1982年にわずか数年だけ生産され、その後数十年にわたり「幻の銘機」として中古市場で高騰し続けたVB-2。その唯一無二の、有機的でどこかノスタルジックな揺らぎが、現代の最高技術「技 WAZA CRAFT」によって完全復活!
使用レビュー:この1台で感情の振れ幅を広く揺さぶれる
VB-2Wがプロを虜にする訳は、そのあまりに広い表現の振幅にあります。
設定を最小限に留めて薄くかければ、それは極上の「隠し味」へと変わります。耳を澄まさなければ気づかないほどの微細な揺らぎが、クリーントーンに露のような潤いと、立体的な奥行きを付与。アンサンブルに埋もれがちな音像が、ほんの一振りで確かな生命感を宿し始める感覚!
一方で、ノブを大胆に回せば、景色を一変させる強烈な「うねり」が牙を剥きます。三半規管を揺さぶるようなサイケデリックな回転感や、眩暈を覚えるほどのドラマティックなピッチ変化。それはもはや装飾ではなく、楽曲の支配者としての存在感です。
アナログBBD素子によるフルアナログ回路の贅沢
VB-2Wの心臓部には、今や希少となったアナログBBD(Bucket Brigade Device)素子が採用されています。デジタルシミュレーションではどうしても再現できない、あの「角の取れた温かみ」と「音楽的なフィルタリング」。
音が揺れるたびに、高域がわずかにロールオフし、中音域が濃密に重なっていく―。このアナログならではの有機的な反応こそが、VB-2Wを「名作」たらしめている最大の要因です。
「Standard」と「Custom」、二つの魂
技クラフトシリーズの真骨頂であるモード切り替え。
Standardモードは、1982年当時のオリジナルVB-2のサウンドを完璧に再現。鼻にかかったような、少し切なく甘いヴィンテージ・ヴィブラートを堪能できます。
対してCustomモードは、現代的なワイドレンジ設計。より深い揺らぎと、低域の太さを維持したままのパワフルなモジュレーションを提供します。一台で「歴史」と「進化」を使い分けられる贅沢がここにあります。
唯一無二の表現力「Unlatch」モード
VB-2Wを象徴する機能が、この「アンラッチ」です。ペダルを踏んでいる間だけエフェクトがかかるこのモードは、フレーズの語尾や、特定の音だけに「ビブラートをかける」という、バイオリニストやサックス奏者のような表現を可能にします。
踏み込みに対する反応は極めてリニアで、演奏者のダイナミクスに忠実に呼応します。
立ち上がりを制御する「Rise Time」の魔法
多くのヴィブラートペダルに欠けているのが、この「Rise Time」ノブです。エフェクトがオンになってから、設定した深さに達するまでの時間を調整できます。
一瞬で揺れるのではなく、じわじわと波が押し寄せるような演出。これにより、不自然な音の変化を防ぎ、音楽の流れを止めないスムーズな導入が可能になります。
バイパス音への徹底したこだわり
オリジナルVB-2は、エフェクトオフ時の音痩せが弱点と言われることもありました。しかしVB-2Wは、技クラフト専用のプレミアム・バッファを搭載。
エフェクトオフ時でも、ギターの信号をピュアに保ち、長いケーブル回しでも鮮明なトーンを維持します。現代の複雑なシステムにおいても、安心して組み込めるプロ仕様の設計です。
エクスプレッション・ペダルによるリアルタイム制御
外部ペダルを接続することで、Depth(揺れの深さ)を足元でリアルタイムにコントロールできます。
曲の盛り上がりに合わせて、徐々に揺れを深くしていく...。まるで見えない手で弦を揺らしているかのような、劇的なダイナミクスを生み出すことができます。
伝説を所有する悦びと信頼性
「幻のペダル」を中古で探すリスク(故障や高価格)を負うことなく、5年保証の付いた新品で、しかもオリジナルを超える音質で手に入れられる。
BOSSの代名詞である「堅牢さ」はそのままに、大御所エンジニアによる日本国内でのハンドメイド的な仕上げ。この安心感こそが、ステージに立つプレイヤーにとって最大の武器となります。
幻の「VB-2」から受け継がれた遺伝子
1980年代、早すぎた天才の帰還
1982年。コーラスやフランジャーが全盛だった時代に、BOSSはあえて「ピッチのみを揺らす」ヴィブラート専用機を世に送り出しました。当時はその良さが理解されず短命に終わりましたが、その後、その独特のローファイ感と叙情的な響きに気づいたトッププレイヤーたちがこぞって使用を開始。
気づけば「最も入手困難なBOSSペダル」の筆頭に挙げられるまでになりました。VB-2Wは、その数十年越しの期待に応えるべく誕生したのです。
「コーラス」とは決定的に違う「ヴィブラート」の立ち位置
コーラスは「直系音と揺れた音」を混ぜて厚みを出しますが、ヴィブラートは「揺れた音のみ」を出力します。
この違いは決定的です。コーラスが「空間を広げる」エフェクトなら、VB-2Wは「音そのものを震わせる」エフェクト。音像がぼやけず、芯がしっかりしたまま揺れるため、アンサンブルの中でも埋もれることがありません。
詳細スペック&ビジュアルインプレッション
基本仕様
| 項目 | 詳細 |
| 製品名 | BOSS VB-2W (Vibrato) |
| シリーズ | 技 WAZA CRAFT |
| 回路方式 | フルアナログ(BBDライン) |
| モード | Standard / Custom |
| 動作モード | Latch / Unlatch / Bypass |
| 電源 | 9V DC(センターマイナス)/ 9V電池 |
| 外形寸法 | 72 (W) x 129 (D) x 59 (H) mm |
| 重量 | 450g |
機能美と直感的なインターフェース
鮮やかなブルーの筐体に、技クラフトの証である「技」の文字。4つのノブ(Rate, Depth, Rise Time, Mode)は、それぞれが干渉し合うことなく、直感的に「美味しいポイント」を見つけられるよう配置されています。
特にモードセレクターの「Unlatch」位置は、ライブでのクリエイティブな演奏を瞬時に想起させます。LEDの点滅速度はRate(揺れの速さ)と同期し、暗いステージでも視覚的に設定を確認できる実用性を備えています。
ジャンル別・即戦力セッティング集
ドリームポップ/シューゲイザー:幻想的な浮遊感
- Rate: 10時
- Depth: 2時
- Rise Time: 9時
- Mode: Custom
深いリバーブと組み合わせることで、空間が溶け出すようなトーンに。Customモードのワイドな揺れが、夢心地な世界観を構築します。
ネオソウル/Lo-Fi Hip Hop:ヨレたレコードの質感
- Rate: 9時
- Depth: 11時
- Rise Time: 0(最小)
- Mode: Standard
あえて少し「ピッチが不安定な」レコードのような質感を演出。クリーントーンのコード弾きに加えるだけで、一気に今っぽく、エモーショナルな雰囲気になります。
クラシック・ロック:泣きのソロ表現
- Rate: 1時
- Depth: 12時
- Rise Time: 1時
- Mode: Unlatch
ソロのロングトーンの語尾だけを狙って踏み込みます。Rise Timeを少し上げることで、指でチョーキング・ヴィブラートをかけていくような自然な立ち上がりをシミュレートできます。
サイケデリック・ブルース:高速回転の衝撃
- Rate: 4時(高速)
- Depth: 3時
- Mode: Standard
まるでレズリースピーカーが高速回転しているような、あるいはリングモジュレーターに近い、過激でアグレッシブな揺らぎ。オルガン的なアプローチに最適です。
プロフェッショナルの視点:VB-2Wが選ばれる理由
スタジオ・ミュージシャンの証言
「コーラスだと音が広がりすぎてミックスで扱いにくいことがある。
でもVB-2Wはピッチそのものを揺らすから、定位がはっきりしていて、なおかつキャラクターが強い。特に『Unlatch』モードは、指のヴィブラートでは不可能な一定の周期を持った揺れを、必要な時だけ呼び出せる。これは替えがきかない武器だね。」
ツアー・テックの視点
「オリジナルのVB-2は、今や10万円近くすることもあるヴィンテージ。それをツアーに持ち出すのはリスクが高すぎる。
VB-2Wは、音質的にはオリジナルと遜色ないどころか、ノイズ面では遥かに進化している。何より、壊れてもすぐに買い直せるという安心感が、過酷なロードを共にするプロには不可欠という側面もあります(笑)」
BOSS VB-2 / VB-2W:主な使用アーティスト
Graham Coxon (Blur)
- 詳細: 90年代から一貫して愛用。彼の独創的で「ヨレた」ギターサウンドの核として有名です。VB-2Wが発表された際も、インタビュー動画でその再現性を絶賛しています。
Kevin Parker (Tame Impala)
- 詳細: 現代サイケデリック・ロックの巨匠。Diamond Vibratoと並び、BOSSのヴィブラートサウンドを多用。ライブボードにおいてVB-2Wの導入が確認されています。
Nels Cline (Wilco)
- 詳細: 「現代のギター・アンチ・ヒーロー」と称される彼は、オリジナルのVB-2を長年愛用。VB-2Wについても、オリジナルのトーンを完全に捉えていると高く評価しています。
The Edge (U2)
- 詳細: 空間系エフェクトの達人として知られる彼は、特定の楽曲でピッチの揺らぎを加えるためにVB-2を組み込んでいます。
Mike Einziger (Incubus)
- 詳細: 多彩なエフェクト使いで知られる彼は、浮遊感のあるテクスチャーを作るためにVB-2を使用しています。
ライバル機との徹底比較
vs BOSS CH-1 / CE-5:コーラスとの決定的な違い
| 項目 | BOSS VB-2W | BOSS CH-1 / CE-5 |
| 効果の質 | 完全なピッチ変調(100%揺れ) | 原音+変調音のミックス |
| 音像の定位 | 芯が太く、センターで揺れる | 左右に広がり、奥行きが出る |
| 空気感 | 有機的・ノスタルジック | 爽やか・モダン |
| 用途 | 感情表現・独創的なテクスチャー | 音の厚み・透明感の付与 |
コーラスは原音を混ぜるため、音が華やかになる反面、ピッチの揺らぎは「膜」のようにコーティングされます。対してVB-2Wは原音を一切残さず、全ての信号を揺らします。この「逃げ場のない揺らぎ」が、バイオリンのビブラートのような剥き出しの情緒を生むのです。
vs Walrus Audio Julia:多機能モジュレーションとの対決
| 項目 | BOSS VB-2W | Walrus Audio Julia |
| 回路方式 | フルアナログ(BBD) | アナログ(LFO制御) |
| 操作性 | 迷いなし・直感的 | 複雑(ブレンド調整可能) |
| 独自機能 | Unlatchモード / Rise Time | コーラス〜ヴィブラートの無段階ブレンド |
| サウンド | 温かく「枯れた」質感 | 現代的でダークな質感 |
Juliaはコーラスとヴィブラートをブレンドできる現代の名機ですが、VB-2Wには「Unlatch(アンラッチ)」という唯一無二の武器があります。演奏の瞬間的なニュアンスに合わせてエフェクトを「差し込む」表現力において、VB-2Wの右に出るものはありません。
vs JHS Pedals Artificial Blonde:ブティック派ヴィブラートとの比較
| 項目 | BOSS VB-2W | JHS Artificial Blonde |
| フットスイッチ | 1個(多機能) | 2個(プリセット切り替え) |
| キャラクター | 1982年の伝説の再現+α | Madison Cunninghamのシグネチャー |
| 設置面積 | 標準的(BOSSサイズ) | やや大型 |
| 強み | Rise Timeによる自然な立ち上がり | 2つのセッティングを瞬時に交代 |
JHSは特定のサウンドを追求するのに最適ですが、VB-2Wは「ヴィブラートというエフェクトそのものの原典」としての風格があります。特にRise Timeノブによる「後から追いかけてくる揺れ」は、JHSにはないVB-2Wだけの音楽的マジックです。
まとめ:遺伝子や細胞レベルに訴えかける「あたたかさ」
VB-2Wの音にこれほどまで惹かれるのは、私たちの「生命の記憶」に直接触れてくるからかもしれません。
フルアナログのBBD回路が紡ぎ出す、どこか切なさを孕んだピッチの変化は、母体の鼓動や、原始から続く生命のリズムを呼び起こします。おそらく、私たちの遺伝子や細胞の奥底に刻まれた「心地よいゆらぎ」の記憶に、静かに、しかし深く共鳴するのからなのでは?
誰しも、一度この音を知ってしまえば、もう直線的なだけの音の世界には戻れないでしょう。
プレーヤーから放たれる旋律が、このエフェクトを通じて「波」となるとき、生命そのものの叫びを奏でる特別な依り代へと昇華されるのです。






